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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.01.16

vol.301  − 映 (はえる) −

久し振りの雪時雨(ゆきしぐれ)、‟激しい風花”と表現したいくらいです。
陽光の中、横殴りの雪、妖(あや)しく舞い、琳派(りんぱ)の屏風のようです。
‟白い太陽”の光のもと、降っている雪、そしてこの時季、これを雪時雨と呼ぶのが正しいのか、分かりません。

起床時、帰宅時、静かに、ふわっと身辺を包んでくれる水仙の香り、北国の人間にとって春を待ち焦がれる気持ちが募(つの)ります。

         其(そ)のにほひ桃より白し水仙花
                             松尾芭蕉

四季の雪月花を愛(め)でることは日本人の楽しみの一つです。今や、厄介物としてしか受け取られていない雪、元々は、降る雪を眺め、盃を傾けるのは、日本人の遊びの一つだった筈(はず)です。
我々の季節感の奥底には、自然と向き合って、その美しさを愛で、と同時に、自然を大切にするという、先人達が大切にしてきた自然観があります。
社会の変化と近年の気象変動は、雪に向ける我々の視線を険しいものにしてしまっています。

年始め、街の漫(そぞ)ろ歩き、垢抜(あかぬ)けている和服姿の御婦人を多くみます。しかも、見映えがしているのです。着ているものより着ている人のほうが目立つ時、そこに人間(ひと)は「粋」を感じます。

和の粋(いき、すい)、手元にある書物でながめてみます。
「粋」には、‟いき”、‟すい”二つの読み方があります。今は同じ捉え方で使っているようです。
我々日本人特有の美意識と考えている風にみえる粋(いき)、快(こころよ)い言葉の響きもこれに関与(あずか)っています。
元々は、江戸時代に抬頭(たいとう)してきた町人の美意識として世に出てきたようです。

九鬼周造の「『いき』の構造」、我々の年代だとマルクスの「資本論」とともに、学生時代、一度は手に取る本です。
粋とは一種のお洒落(おしゃれ)〔宇野千代〕、無粋な人が刻苦勉励(こっくべんれい)して、粋になったという話は聞かない、と容赦がありません。
気障(きざ)であってはだめで、緊張感を伴っていないとダメ、さっぱりと垢抜けして、しかも色気を湛(たた)えた淡泊な美と言えそうです。
地方の凡人から言わせてもらえば、「痩せ我慢の美」と、半畳(はんじょう)を入れたくなります。

粋の生い立ちを辿ると、先(ま)ず、先人達の持っていた武士道や仏教観が背景に在り、それを町人達の金の魔力や苦界(くがい)の哀しい境遇で濾過(ろか)した末に手にした心情のようです。

粋は詩歌の世界にもあります。
我が国の詩歌では、悲しみや喜びをうたうという直接的表現はみられません。それは、野暮とされます。
「荒城の月」、「おぼろ月夜」、今も歌い継がれている歌の詩は、風景で心情を伝えています。

11日は「塩の日」とされています。戦国時代における故事に由来するようです。
塩は、人類が生きていくには無くてはなりません。しかも、人類が口にする唯一の鉱物の一族と記されています。塩作りや売買は農耕とともに始まり、狩猟民族にはないとのことです。

‟塩の街”を意味する、モーツァルトで有名なザルツブルグ、サラリー、兵士(ソルジャー)の語源は塩です。
我々の世代に馴染(なじみ)があった塩の専売公社、1985年(昭和60年)に廃止されました。
人類の歴史を動かしてきた塩、人類にとって死活にかかわるこの塩、今や、消費の8割は工業用だそうです。

近年は不純物が入って、色がついていたり、不揃いな品がもて囃(はや)されています。
このような世情、真っ白で、粒の揃った塩を作る為の、気の遠くなるような長い、苛酷な歴史に思いを馳せると、人類は爛熟(らんじゅく)期に入ったという観が拭えません。

今週の花材は、執務室は早春の華やぎを先取りしているようです。
一方、秘書室はダリアの深紅が落ち着いた雰囲気を醸し出しています。



(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)




今週の花


【理事長室】
■ドラゴン柳   ヤナギ科/雲竜柳(ウンリュ
ウヤナギ)の変種。茎が黄色〜赤茶色で、枝
振りも変化に富む。くねくねとした枝の形を利
用してダイナミックに活ける他、丸めたり絡め
たりと形を変えて利用できる。
■カラー〔ウェディングマーチ〕   サトイモ科
/球根植物/《名前の由来》メガホン状の苞
がワイシャツの襟に似ていることから/江戸時
代にオランダから渡来。“オランダから来た芋”
を意味する「阿蘭陀海芋」(オランダカイウ)の
別名を持つ。花弁のような部分は苞で、その
中の棒状の部分が花。
■ピンポン菊〔パンテオン〕   キク科/多年
草/デコラ咲きのピンポン菊。真ん丸にはなら
ず、ダリアのような花姿が特徴。通常のピンポ
ン菊同様に、非常に鑑賞期間が長い。「パン
テオン」はシックな赤茶色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3011.jpg

【秘書室】
■ダリア  キク科/多年草/《名前の由来》
スウェーデンの植物学者ダールの名から/世
界に3万種以上もあり、品種がとても豊富。輪
の大きさは3cm程の小輪から30cm以上にも
なる巨大輪まである。咲き方は一重咲・八重
咲の他、花弁が尖ったオーキッド咲や花弁が
波打つピオニー咲、ピンポン菊のようなボール
咲などもある。
赤色系「ガーネット」黒色系「黒蝶」
■リューココリネ〔カラベレ〕   ユリ科/球根
植物/細い茎の先に4〜5輪の可憐な花が咲
き、バニラのような芳香がある。花弁は透き通
るような透明感があり、6枚弁の星形に開花。
花色は白やブルー系などがあり、「カラベレ」
は綺麗な紫色に中心がエンジの複色。同じ花
色でカラベレに比べ花弁が丸い「アンデス」も
ある。
■リビストニア   ヤシ科/非耐寒性常緑高
木/シュロの葉のような形で、葉と葉の間が
つながった団扇のような葉。原産地では30m
にもなる木で、日本では幼木がインテリアグリ
ーンとして流通。ジャバラ状の葉がユニークで
アレンジに適する。
■ドラゴン柳(理事長室と同花材)
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3012.jpg

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