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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.09.12

vol.286  − 訊 (きく) −

仲秋の名月(9月8日)、東の空から、青白い光で、大きな姿を輝かせて出てきました。時と共に黄金色に変化し、深夜、宙(そら)高く、大地を冷涼に照らしています。
子供の頃、十五夜(じゅうごや)と呼んでいました。今、親の時代のようにはお供え物は無く、独り見上げるのみです。
   (vol.7 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=13
   (vol.140 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=173

         月(つき)天心(てんしん)に至(いた)る処(ところ)
         風(かぜ)水面(すいめん)に来(きた)る時(とき)
         一般(いっぱん)清意味(せいいみ)
         料(はか)り得(え)たり人(ひと)の知(し)ること少(まれ)なるを
                                              邵雍(しょうよう)

月が天高く在り、水面(みなも)が輝いています。その水面にさざ波が立っています。澄み切ったこの景色、みる人にさわやかな気持ちをもたらします。只、人々はこの景色に関心を払っていません。
世事に感(かま)けて、街の喧騒(けんそう)の中、月に心を寄せる人が少ない今を歌っているようです。

盆地である信夫の里、朝晩と昼で極端に温度が違います。道端にはコスモス、道往く人に秋を知らせています。庭には芙蓉(フヨウ)が一輪、咲いています。植えたわけでもないのに…、御天道様の贈り物です。

早朝、庭の山桜から病葉(わくらば)が一葉、舞い落ちました。蜘蛛の糸に掛かったのでしょうか、空に浮遊しています。一葉落ちて天下の秋を知る、です。

今、自然が地球規模で牙を剥(む)いています。
自然と人間との関わりを考えてしまいます。

我々が愛(め)でることの出来るのは、宥(なだ)められた、管理された自然です。生(なま)の自然ではありません。
先人達は、里山や入会地(いりあいち)を作り、他の生き物と、共に天を戴いていました。現代に生きる我々は、先人が自然に抱いていた懼(おそ)れを受け継がず、「折り合い」を忘れてしまっているようです。

“ストーカー”、“危険ドラッグ”、“パワーハラスメント”、“セクシャルハラスメント”、横文字が氾濫しています。
騒がしい世の中です。

先人達の知恵、多少は耐え忍んで受け入れる辛抱、矩(のり)を踰(こ)えずに一歩退く器量、お互いに相手に敬意を払う礼儀が必要です。ウチとソト、建前と本音、暮らしと世間の垣根、見つめ直す必要があります。

只、「昔は…」、「今の若い人は」という言葉を聞く時、少しの違和感と自分への嫌悪感を持ってしまいます。
世情は、若い人だけで作っているわけではありません。

古典に接すると、今尚、人間の本質に変わりがないことが分かります。
一方、世情は、世間の広さ、移ろいの速さ、情報量の多さ、人間(ヒト)の物腰など、以前とは、様相を異(こと)にします。自分の幼かった頃と比べても、人々の挙手動作の違いに、隔世の感があります。

「社会の衰退は、往々にして、最盛期のすぐあとに始まる」という箴言は、組織にも当て嵌(は)まります。

「生ある限り全てが試練」、「面白いものでも、楽しいものでもない」人生だから、その時だけは、華やぎをもたらしてくれるシャンパンに憧れました。
シャンパン、映画の印象的な場面に登場します。古くは、「カサブランカ」、「ティファニーで朝食を」、近くは「プリティウーマン」、「めぐり逢えたら」などです。
名の知られたシャンパン、ある時から味が変わりました。プロの方達に尋ねてみました。売れ過ぎて、数を稼ぐ為に、以前程、手間暇を掛けていないという話でした。同じ話が他のシャンパンにもありました。先の箴言が聞こえてきます。

“一瞬の別世界”、語っていて、気がつけば老人の繰り言、無粋です。

今週の花材は、花器と花の色が相俟(あいま)って、執務室は清冽な、秘書室は穏やかな秋の演出です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ワレモコウ   バラ科/多年草/先端の実
のように見える部分は小さな花の集まりで、花
弁は無い。日本全土の山野に自生し、7〜10
月頃に咲く。根はタンニンを多く含み、漢方で
は止血剤などに用いられる。漢字では「吾亦
紅」「吾木香」「割木瓜」とも表記される。
■鉄砲百合   ユリ科/球根植物/《名前
の由来》花の形が筒状で横向きに咲き、鉄砲
の形に似ることから/沖縄では自生種が群生
する。ラッパ型に咲き、オリエンタルやスカシユ
リとはまた違った趣のユリ。地植えなら降雨だ
けでも毎年咲くような頑健な性質。
■ダリア〔祝盃〕  キク科/多年草/オランダ
から渡来し、当時は“天竺牡丹”と呼ばれる。
品種がとても豊富で世界に3万種以上。花径
が3cm程のものから30cm以上の巨大輪ま
である。「祝盃」は小輪系の複色で、朱赤に花
弁の縁側が白色。
■ドラセナ〔コーディラインアジアンレッド〕
リュウゼツラン科/日本で流通する観葉植物
の代表種。「アジアンレッド」は赤葉で、正式に
はドラセナではなくコルジリネ。赤葉は他に「ア
トム」や「カプチーノ」等がある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2861.jpg

【秘書室】
■菊〔スプレー菊〕   キク科/多年草/茎が分岐し1本に
数輪の花が咲くスプレー咲きの菊。品種改良が盛んで、咲き
方や花色など多岐にわたる。今回は落ち着いたピンク色の
「アローム」を使用。
■トルコギキョウ〔セシルブルー〕   リンドウ科/多年草/
花の咲き方や大きさ、花色がとても豊富。品種改良が盛ん
で毎年多くの新種が登場する。「セシルブルー」は濃紫色で
可憐な一重咲。
■雪柳〔赤塗〕   バラ科/落葉低木/《名前の由来》花を
散らした様が雪が降ったかのように見えることと。柳のように
しなやかな枝振りから/春に小さな白い花を枝いっぱいに咲
かせる。前回の理事長室花材にて使用したものは自然色で
今回のは紅葉したように染めたもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2862.jpg

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