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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.07.25

vol.280  − 響 (ひびく) −

庭の百日紅(サルスベリ)が咲き出しました。向日葵(ヒマワリ)もあちらこちらで見かけます。
紅や黄色が真夏の到来を告げています。
 
         絲綸閣下文書静々なり
         鐘鼓楼中刻漏長し
         独り黄昏に坐して誰か是れ伴なる
         紫薇(シビ)の花に対す紫薇の郎
                             白居易

夕暮時、静寂の中での勤務、時を告げる鐘の音が響いている庭、その庭に紫薇(百日紅)の花が咲き乱れています。
夏、セピア色に染まった夕景色のなか、情熱的な百日紅の色が鮮やかです。この詩、寂寥感(せきりょうかん)と華やかさの対比が、人生のたそがれを際立たせています。

連日の鉄路での移動、日々変わること無く、陽射しが大地を発光体のように輝かせています。
見渡す限りの田圃(たんぼ)、稲苗(いねなえ)が吹き渡る風で揺れる様は、海原のようです。この景色、水面に石を投げ入れて生じる波紋のようです。波紋は地平線の果てまで広がり、観(み)ている者の心の裡(うち)にまで及びます。

水田の広がりと人々の営み、我が国の原風景の一つです。人はそこに、郷愁を見い出し、安らぎを感じ取ります。この風景、本(もと)を正せば、大陸や半島から渡来した文明の一つです。

和の象徴の一つである障子、我が国の障子は紙を桟(さん)の外側に貼ります。一方、内側に貼るという違いはありますが、朝鮮半島にも障子はあります。これも海外から入ってきた設(しつら)えです。
和服、元々は呉服と言われていました。「呉服屋」という名称、私の子供の頃にはまだ残っていました。和服の源流が呉の国に由来することを示しています。

我が国の文化、元々の起源は海外にあることが殆(ほと)んどです。暮らしの中で、我が国独特の品としては、座布団でしょうか。

我が国の文化の素晴らしさを我々に教えてくれたのは、外国の人々です。

アーネスト・フランシスコ・フェノロサは、我が国が古来の美術を蔑(ないがし)ろにしているのを嘆き、その素晴らしさを国内外に知らしめることに生涯を捧げました。
日本の雑器(ざっき)に「用」の美を見い出し、民芸運動の勃興に尽くしたのはバーナード・リーチです。
批判や異説がありますが、日本人に建築の「形」の美を気付かせてくれたのは、ブルーノ・タウトです。
100年以上も前、当時の暮らしのなかのガラクタ、日本の「物」の独自性に最初に気付いたのはエドワード・S・モースです。これらは、今や、貴重なコレクションです。
浮世絵が日本の美として知られるようになったのは、1867年、パリの万国博覧会への出品からです。

今、私達が誇り、海外の人々も高く評価している「和の美」に初めに気付いたのは、外国人なのです。

今もそれは形こそ違え、続いています。
映画「ロスト イン トランスレーション」、東京の雑踏の美しさ、異国人からみた我が国の雰囲気と魅力、東京のホテルを舞台に表現しています。
日本人からみたら言いたい事もあります。しかし、海外の人の視点、新鮮です。

この逆もあります。
李朝の美を、韓国の人々や日本人に知らしめたのは浅川伯教(のりたか)と巧(たくみ)の兄弟です。彼等の努力が、世界中にこの美を広げる切っ掛けだったのです。

“自分のことは自分が一番知らない”は、ここでも真実です。

我が国は、地理的に、文明や人々が吹き寄せられる最果ての地です。だからこそ、独特な文化が生まれたのです。これから先、海外との交流のなかで、どんな新たな「和の文化」が創られていくのか、楽しみです。

今週の花材、対照的です。執務室はレインフォレスト、秘書室は涼やかな風を感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ヤマゴボウ   ヤマゴボウ科/多年草/ブ
ドウのような房に小さな花を多数咲かせる。花
後に黒紫色の実がなり、ブドウのように垂れ下
がる。果汁が染料になることから、「インクベリ
ー」の名を持つ。薬用としても利用されるが、
根は有毒。
■プロテア〔ビーナス〕   ヤマモガシ科/常
緑低木/《名前の由来》ギリシャ神話の海神
プロテウスの名より。同属とは思えないほど変
異種が多いことから、自由自在に変身できる
プロテウスの名にちなんで/圧倒的な存在感
をもつワイルドフラワー。花持ちが良く、ドライフ
ラワーにも適す。
■リンドウ   リンドウ科/多年草/秋の代
表花で野草として古くから親しまれる。花色は
青紫色を中心に、白やピンクもある。薬草とし
ても知られ、根や茎根に健胃作用がある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2801.jpg

【秘書室】
■アガパンサス〔ガーデンテーブル〕   ユリ科/多年草/花期は6〜
7月で長く伸びた茎の先端に多数の花を咲かせる。さわやかな涼感のあ
るブルー系の品種が豊富。強健な性質で手がかからないので公園など
の植え込みにも人気。「ガーデンテーブル」はラベンダー色。
■トルコギキョウ〔カルメンカシス〕   リンドウ科/多年草/花の大きさ
や咲き方、花色がとても豊富な夏の花。品種改良が盛んで毎年多くの
新種が登場する。「カルメンカシス」は赤紫色の八重咲。
■アナベル〔グリーンアナベル〕   ユキノシタ科/落葉低木/小さな
花が集まって手毬状に開花。緑色の蕾から開花につれて白色に変化し
20cm位になる。今回は満開に咲ききった白色からグリーンに変化した
ものを使用。ドライフラワーにもなり、リースなどに人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2802.jpg

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