HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2014.06.13

vol.274  − 募 (つのる) −

信夫の里、ツツジの紅い花弁が雨に濡れて路上に散り敷かれています。その上を山法師の白と緑が覆っています。早朝、鳥たちが、雨を喜んでいるかのように、賑やかに鳴いています。

帰国、梅雨です。鉄路からの景色、雨に煙っています。

屋敷林や里山の林、白い霧に包まれています。樹々の葉は、雨で淡い緑です。
小雨降りしきる田圃(たんぼ)、早苗(さなえ)が伸び、緑が水面を覆っています。白鷺(シロサギ)、2〜3羽その中に舞い降り、餌を啄(ついば)んでいます。畦道(あぜみち)、幼子児(おさなご)を連れた老婆が、それをみています。

         積雨(せきう) 空林 烟火(えんか)遅し
         ・・・・・
         漠漠(ばくばく)たる水田に白鷺(はくろ)飛び
         陰陰(いんいん)たる夏木(かぼく)に黄鸝(こうり)囀(てん)ず
         ・・・・・
                                             王維
雨の中、人気のない林…。
煙がゆっくりと流れています。霧のかかっている水田には白鷺、薄暗い木立で鶯(ウグイス)が鳴いています。

この詩そのままの光景が、一瞬、眼前に展開して去っていきました。

車窓を打つ雨音と雫(しずく)の流れ、しっとりした大気と雨の音が、心の裡(うち)にまで入り込み、人間(ひと)の心を嫋(たお)やかにしてくれます。
大気の潤いは、人間の心の底に、むしろ風通しの良い空間をつくってくれて、却って心に湿り気が溜りません。

以前にも記しましたが、雨が嫌いではありません。
   (vol.49 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=74
   (vol.126 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=159
   (vol.169 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=203
   (vol.178 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=212

         ぬば玉の闇のふかさにあゆみいる
         あなやさしもよ雨の脚なみ
                             保田與重郎

深夜、夜来(やらい)の雨が作る音、辺りに静寂を、心の裡には思い出を甦らせてくれます。

疲れ果てた時、雨音のCDを執務室で流しています。
   (vol.31 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=51
   (vol.126 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=159
   (vol.160 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=194
この時季だけは、本物の雨降りがBGMです。

海外の学会、以前、朝から晩まで出席していました。
“地位や年齢とともに求められる役割は変わる”と自らに言い聞かせ、数年が経ちました。
  《理事長室からの花だより》
   (vol.32 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=52
   (vol.155 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=188
   (vol.174 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=208
   (vol.220 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=257
  《学長からの手紙》
   (No.196 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/196.html
   (No.215 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/215.html
   (No.221 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/221.html

学会中、会場に居ないのは、今尚苦痛です。
昼間から酒を飲んでいるような、かすかな罪悪感、居心地の悪さを持ってしまいます。

“斗(たたか)いの場”から、“英気を養う場”と学会を捉えてから、それを実感する機会を初めて得ました。

宿泊したホテルの周りに広がる小高い丘の林、文字通り、逍遥(しょうよう)してみました。一頻り歩んだ後、ベンチに腰をおろして、眼下に広がる街並みをみていました。

楓(カエデ)と松が大部分の樹々、春紅葉(ハルモミジ)が混じっています。強い日差しが樹々で遮られ、周囲との温度差が生じ、爽やかな風が木々の間を吹き渡っています。根元の露草の青が、涼風を一層清々しいものにしてくれています。清閑(せいかん)を実感しました。

旅、交通手段が発達し、身の安全の確保が比較的容易な今、旅それ自体が目的になります。意外な発見や出会いが、旅の中にあります。旅は、今を生きる人間にとって、気持ちを切り替える手段の一つです。

昔の旅、英語の“travel”の語源が“trouble”にあると聞いたことがあります。昔はやむを得ず、何かの目的を果たす為の手段だったのです。古典文学を繙(ひもと)いても、つい最近まで、旅は決死の覚悟を要したことが窺えます。

自分の仕事の全てを賭けて、創設期から臨んでいた学会、私より長い会員歴の出席者は、今や1人だけです。会の有り様(ありよう)もすっかり変わってしまいました。そろそろ退き時です。

人生一度きりの四季、旧(ふる)い人間が、一度は通らなければならない道です。

今週の花材、水分を孕(はら)んだ大気に紅、黄、緑が映えます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■エレムルス〔クレオパトラオレンジ〕   ユリ科
/1m以上の長い花茎の雄大な植物。花穂1本あ
たり300〜500の花が咲く。砂漠に自生し「デザ
ートキャンドル」の別名を持つ。花色はオレンジの
他、黄色やピンクもある。
■グロリオサ〔ロスチャイルディアーナ〕   ユリ科
/球根植物/花弁が反り返り、赤く燃える炎のよ
うな花姿。半蔓性の植物で葉先が巻きヒゲになり
支柱などに絡まって成長する。「ロスチャイルディ
アーナ」は深紅色。
■アメリカデマリ〔ディアボロ〕   バラ科/落葉
低木/コデマリの一種。コデマリに似た淡いピンク
の花が咲く。暗褐色の銅葉が魅力で、晩秋の紅
葉も美しい。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2741.jpg

【秘書室】
■エキノプス〔ベッチーズブルー〕   キク科/多年草/
《名前の由来》ギリシャ語で“ハリネズミに似た”という意
味/アザミに似た葉と瑠璃色の球形から「ルリ玉アザミ」
の和名を持つ。茎の先端に青紫色の小花を球状に咲か
せる。
■ブバルディア〔ダイヤモンドボルドー〕   アカネ科/常
緑低木/4枚の花弁で十字型に咲く筒状花。枝先に多数
の花を房状に咲かせる。「ダイヤモンドボルドー」は赤色の
八重咲。
■バンダ〔バンドーラダークブルー〕   ラン科/樹木や
岩肌に根を張り付けて育つ着生種。洋ランの中でも特異
なブルー系の美しい花色。10cm程の大きな丸弁で、網
目模様が入るのが特徴。
■アンスリュウム〔エスメラルダ〕   サトイモ科/常緑
多年草/造花と見間違うような光沢のある花(苞)が特
徴。花弁のような苞と棒状の花序をもち、暑さに強く花持
ちが良い。「エスメラルダ」はライトグリーン。
■木苺〔ベビーハンズ〕   バラ科/半落葉低木/ラズ
ベリーやブラックベリーなど、木に実る苺の総称。切れ込
みが深くヤツデに似た葉が特徴。「ベビーハンズ」は赤ち
ゃんの手ほどの大きさで、葉色も従来のものより淡い。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2742.jpg

▲TOPへ