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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.03.07

vol.260  − 慮 (おもんばかる)−

雨です。雨が残雪を溶かし、春の到来を後押ししてくれます。
溶けた雪の下には福寿草、雨垂れの音が愛(いと)しく耳に響きます。

夕暮れ時、西の山々の稜線が金色(こんじき)に輝き、その光が透明感に満ちた空に反射しています。
西方浄土(さいほうじょうど)とはこんな光景か…。

         入り日さす山のあなたは知らねども
         心をかねておくりおきつる
                             西行

作者はこの風景をみて、西方浄土を考えたのか…。
輝きが消えると、一挙に、鎮まったような暗さと沈黙が上空を支配します。
この透明度の高い風景、春の訪れと入れ替わるように、季節の巡りに従って、去って行ってしまいます。

屋内には山茱萸(サンシュユ)があり、文字通り、春黄金花(ハルコガネバナ)です。
部屋の片隅にはフリージア(浅黄水仙〔アサギスイセン〕)、鮮やかな黄が早春の到来を告げています。

         山深み春とも知らぬ松の戸に
         絶え絶えかかる雪の玉水
                          式子内親王

信夫の里もそんな感じがしてしまう程の雪でした。
只、夜、滴(したた)り落ちる雪解けの水は、一時、人を詩人にしてくれます。

歌ならここで終わりです。しかし、現実は、雪解け水は朝までに凍りつき、樹木を傷めてしまいます。
出勤時、それを観(み)るとき、こちらの心まで痛みます。

構内、引き裂かれたように、無残に、折れてしまった樹木、野分(のわけ)の跡のようです。
自然の荒ぶり様に、木も、観る人も意気消沈です。

人間(ヒト)とは、勝手なものです。
雪が降れば、多すぎると怒り、降らなければ水不足が心配だと嘆いているのです。
我儘(わがまま)を戒める、庶民に膾炙(かいしゃ)している口伝に、「頬被り(ほおかぶり)〔今は死語か〕でも、前と後ろは寒い」があります。

大雪、福島の交通に、例のない渋滞が起きていることを知りました。
仕事を切り上げ、新幹線に飛び乗りました。

駅に向かう時、タクシー会社の方から連絡が入りました。「列車の変更はないのか」、「会社の電話が繋がる状態でないので、こちらから連絡した」。
列車の遅れと電話が繋がらない状態を見込んでの連絡、人間(ヒト)の情の有り難さです。

復興事業の実施に安寧の無い毎日、異なった部署から様々な案件が、連日持ち込まれています。
このような日々を過ごしていると、命を落とすか、少なくとも気がおかしくなってしまうのでは…。人生で初めて、自分の有り様に不安が過(よぎ)りました。

そんな時、弟子の英語論文の発刊を祝う小さな宴(うたげ)が催されました。
筆頭著者が、関係者を庶民的な店に招待するのです。一般の祝宴とは逆です。

母に買ってきてもらったバターケーキの懐かしさを弟子たちに話したことがあります。
   (vol.60  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=86
当時のケーキは、年に一度あるかないかのハレ(晴れ)の食べ物です。今は、生クリームです。彼等はその事を覚えていて、私の故郷にある店(代を継いで今でも健在)に事情を話して作ってもらい、持ってきてくれたのです。

普段、「他人に気を配りなさい」、「いくら気を配っても、その半分も相手に届かないのだから、自分のベストを尽くしなさい」と弟子達に説き、自らも努力してきました。

人間(ヒト)は、苦境にある時、あるいは危機的な時、他人(ヒト)の情で癒され、救われます。
私の今の立場は、いくら他人に気を配っても充分ということは決してありません。そんな状況だけに、他人(ヒト)の情(なさけ)、心に沁みます。

今週の花材、どちらも早春の日差しが頬を過(よぎ)った時の、さり気ない優しさを思い浮かべました。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■バラ〔ブルーミルフィーユ〕   バラ科/落葉低木/古くから
親しまれ、現代でも人気の高い花。花色・花形が多岐にわたり
約2万種を超す。「ブルーミルフィーユ」は紫系の色で花弁が多
い。
■モカラ〔ルビー〕   ラン科/バンダ・アラクニス・アスコケント
ルムの3種の蘭を交配した人工種。南国の花で暑さに強く、花
持ちが良い。「ルビー」は落ち着いた赤色。
■モルセラ   シソ科/一年草/花弁のように見える円形のガ
クの中に小さな白い花が咲く。爽やかなライトグリーンと独特の
茎のラインが特徴。ミントのような芳香がある。
■カーネーション〔マサイ〕   ナデシコ科/多年草/母の日の
花として古くから親しまれる。バラ・菊に並び世界的に生産量が
多い。「マサイ」はワインレッド色。
■ドラセナ〔コーディラインホワイト〕   リュウゼツラン科/日本
で流通する観葉植物の代表種。「コーディラインホワイト」は青葉。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2601.jpg

【秘書室】
■サンダーソニア    ユリ科/球根植物/細い茎にベル型の
小さな花が連なって咲く。ランプを灯したようなオレンジ色の可愛
い花姿。原産地でクリスマス頃に開花することから「クリスマスベ
ル」の別名を持つ。
■アルストロメリア〔エストラーダ〕  ヒガンバナ科/球根植物/
一本の茎から5〜8本の花茎を伸ばし、それぞれに花をつける。
一つひとつの花はユリを小さくしたような花姿。ほとんどの品種で
入る花弁の斑が特徴。
■カーネーション〔サレヤ〕 (理事長室と同花材)
「サレヤ」はクリームの花弁の縁にピンクが入る。
■ブプレリュウム   セリ科/一年草/清々しさを感じる鮮やか
なグリーンの葉。よく見ないとわからないが、黄色い小さな花が
咲く。主にグリーンとして利用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2602.jpg

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