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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.02.07

vol.256  − 安 (やすらぐ) −

如月(きさらぎ)、草木の更正、春が近いことを知らせる言葉です。
朝晩の寒気が、風景を際立たせてくれます。

         一本が一本としてきわだてる雑木林の夕映えのとき
                                       沖 ななも

白衣に代わって背広(今はスーツか)が制服になってしまいました。
背広も、白衣と同様に、小さな覚悟を着る者に強います。

背広で過ごして、気付かされることがあります。
会議や会食で、先ず背広を脱いでという“儀式”や声掛けは珍しくありません。洋服を取り入れて100年以上、我々の生活には未(いま)だ完全に根を下ろしてはいない証です。
“背広を着る”は、“窮屈”、あるいは“堅苦しい”感を我々に持たせてしまうのでしょう。

背広の仕立てにも、我が国と発祥の地である欧州では、違いがあるように感じます。
本家では、体に密着させて体型を強調することが基本にあるようです。一方、我が国では、羽織を羽織るような感じで作られます。

コートも同じです。
海外で修業していた時に買ったコート、約40年間着続けています。裏地を張り替えてもらいながらです。長く着ていると体型にコートが馴染み、くたくたになってきて、羽織る感覚が出てきます。その着易さから買い替えられないでいます。

面白い体験を記します。
会食の時、店の方が誤って客の肩にビールを掛けてしまいました。客は欧州の友人です。責任者が、「明朝の出発までにクリーニングに出してお戻しします」と申し出ました。しかし、彼は「替えの上着があるから」と、決して背広を脱ごうとしないのです。
それをみて、「我々も脱ごう」と出席者に呼び掛けて、上着を脱ぎました。そしたら、彼も上着を脱いだのです。

後日、彼(か)の友人が「お前達の上着にネームが刺繍されている」と大発見でもしたように言うのです。
背広に名前を入れる習慣、彼等にはないようです。

上着一つでも、我が国と海外とでは捉え方が違っています。

このような違いは他にもあります。
景色を見る時、我々は、初めに全体を見渡します。包括的で、目の前の変化には気付きにくいのです。
一方、西洋人は、目前のモノに焦点を絞ります。分析的で、背景の変化に気付きにくいのです。
彼我(ひが)の違いに関心を持って海外の人々と交流していると、英語が出来なくても楽しく過ごせます。

平等院鳳凰堂の堂内を飾っている飛天と菩薩像を目当てに、足を運びました。

阿弥陀如来坐像光背の飛天は、金色(こんじき)の彩色が、現代のものかと思える程残っています。
造形と色彩が躍動感と清冽な華麗さを感じさせてくれます。

壁面を飾っている雲中供養菩薩像、彩色の剥落が、静謐(せいひつ)さと彫りの造形美を際立たせています。
時が磨いた美です。
像の配列をみていると、天上界からの音楽が確かに聞こえ、極楽浄土から迎えに来てくれているような感覚が持てます。

素朴さと精緻な造形がぎりぎりのところで折り合い、表情に邪気が無く、清々しい優雅な微笑(ほほえ)みと動きが印象的です。このような表情を生涯で持つことが出来るのか、自信がありません。

これらの像から放たれている“安らぎ”、ちょっと経験がありません。

これらの作品、今という時代だから、庶民が目にすることが可能なのです。間近にみることが出来るのも、今だからです。藤原一族でもここまで間近で拝観してはいないのではないでしょうか。
これみよがしではない表現の巧みさ、当時、どんな思いで工人達が彫り込んでいたのか…。

今週の花材、執務室、秘書室とも、薄紅色が淡い緑との組合せ、寒気の中に春の到来を感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■桜〔東海桜〕   バラ科/落葉高木/中国原産
の「カラミ桜」と日本原産の「小彼岸」の交配種。桜
前線で知られる「染井吉野」よりも早く開花する。し
なやかな枝振りと、枝いっぱいに花をつけることから
近年人気種。
■黄金テマリシモツケ   バラ科/落葉低木/別
名「金葉コデマリ」。アメリカテマリシモツケの黄金葉
をもつ品種。黄金〜ライムグリーンの綺麗な葉色が
特徴。コデマリに似た半球状の花が咲く(別名の由
来)。
■カンパニュラ   キキョウ科/多年草/《名前の
由来》ラテン語の“小さな鐘”を意味する語から。世
界に約300種あり、日本でも4種が自生。風鈴のよ
うな可愛らしい花が連なって咲く。花姿から「釣鐘
草」(ツリガネソウ)の別名を持つ。
■スターチス〔キノピンキー〕   イソマツ科/多年
草/シネンシス系のハイブリッドスターチス品種。ド
ライフラワーに適し、綺麗に花色が残る。「キノピンキ
ー」は濃いピンク色で、他に「キノシフォン」や「キノラ
パン」等もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2561.jpg

【秘書室】
■ニゲラ   キンポウゲ科/一年草/花弁の
ように見える部分はガクで、本来の花弁は退化
している。花後に風船のような実になり、その姿
も楽しめる。実の中に黒い種をもち、「黒種草」
(クロタネソウ)の別名を持つ。
■ラナンキュラス〔ちほの詩〕   キンポウゲ科
/球根植物/幾重にも重なる柔らかい花弁が
特徴。花色は淡〜濃色、複色など豊富。「ちほ
の詩」は白い花弁の縁にピンクが入る可愛い品
種。
■バラ〔デザート〕   バラ科/落葉低木/古く
から親しまれ、現代でも人気の高い花。花色・
花形など多岐にわたり、約2万種を超す。「デザ
ート」はシルバーがかったクリーム色で、外側の
花弁は緑色。名前の由来はケーキやお菓子等
のデザートではなく“砂漠”から。
■ブプレリュウム   セリ科/一年草/爽やか
さを感じる鮮やかなグリーンの葉。主にグリーン
として扱っているが、黄色い小さな花が咲く。
■テマリソウ   ナデシコ科/多年草/マリモ
や芝を想わせる個性的な花。ふさふさした部分
は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2562.jpg

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