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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.01.10

vol.252  − 重 (かさなる) −

年の始め、「時は積み重なる」感覚です。
信夫の里では、今が日の出の最も遅い時季です。

仕事納めの街中、氷雨のなか、往き交う人で賑わっていました。
仕事納めの宴(うたげ)の材料買いと思(おぼ)しき若い人々、未だ仕事が終わらず険しい表情の人、ポケットに手を突っ込み表情無く歩いている人、帰宅、会食に急ぐ人々の群れなど、様々な人間模様です。

歩道に目を転ずれば、路面は黒く光り、葉をすっかり落とした街路樹の下、銀杏(イチョウ)の葉が病葉(わくらば)となって散り敷かれています。土に還れず、蜿(もが)き苦しんでいるようで、少し痛ましく感じます。

年の暮、都心の官庁やオフィス街には人通りが少なく、静寂が支配しています。道路を横切るのに信号の助けが要りません。青空の下、ビルも心なしかその輪郭を緩めて、一時の休暇を楽しんでいるようです。

一方、電車、バス、タクシー、警察官、ガードマンといった方々は、いつもと変わらず、求められる役割を淡々と果たしています。若い時分の大晦日や元日の当直を思い出します。
大晦日、開けている店もあります。主(あるじ)や会社のトップの、仕事に対する考え方が窺(うかが)えます。

皇居のお堀には、セグロカモメやパンダ鴨(ミコアイサ)が、水面を泳ぎ廻ったり潜ったりしています。
飛翔を繰り返すカモメも目につきます。

一羽のカモメが水面に触れるかのように舞っています。
この景色、「Return to forever」(チック・コリア)のジャケットデザインそのものです。このアルバムは、モダンジャズに対するイメージを変えました。夜の音楽から昼の音楽へ、暗さや葛藤(かっとう)から明るさや楽しさへと。ジャズが新たなファンを獲得したのです。

大晦日の世情、「世間胸算用」(井原西鶴)以来、子供の頃に肌で感じた年末の慌ただしい雰囲気、今も昔も変わりません。

         大晦日は定めなき世の定めかな
                            井原西鶴
 
万物流転の時の流れの中、この日だけは厳然と動かずに存在して、すべての始末が求められます。
高度成長期前までの庶民には“切ない大晦日”でもありました。

大晦日、昔あって今ないものは、集金に走り廻っている人々です。
戦後から高度成長期まで、借金を返さないと、と思い悩んでいた親や近所の人々、年越しの米や味噌を貸し借りしていた隣付き合いも、今はもうみられません。
只、始末をつける苦しさは形を変えて存在している筈です。

初詣で、神社仏閣に人が集います。
成人になってから最近まで、年末年始は働くか体を休めるもので、初詣は縁のないものでした。

“神仏を尊び、頼まず”、そして生来の偏屈、お参りするのは人の行かない所ばかりです。周囲が再開発されて取り残された神社、昔、この社(やしろ)を護っていた地域の人々の声を聴きます。
今年、訪れた3社でも、詣でる人無し、居ても片手、両手で余る程の人出です。静かな雰囲気は、自問自答出来る時間を与えてくれます。

思い立って、一時間弱を歩いて、混んでいるのを承知で有名な神社を訪れてみました。
鳥居をくぐったところで諦めました。
今の初詣は、昔のお伊勢参りのような意味合いを含んでいるのかと感じました。

幕末の会津藩士で、維新後、多くの人々の尊敬を集めた秋月悌次郎が1月5日(1900、明治33年)没しています。75年の生涯です。
   (vol.63  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=89
   (vol.113  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=141
   (vol.121  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=152
   (vol.142  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=175
   (vol.192  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=228
彼の「行くに輿(こし)なく帰るに家なし」の北越潜行の詩、一代の絶唱として今に伝えられています。
この歌を詠んだのは、会津盆地を一望する束松(たばねまつ)峠です。

今週の花材は、両室とも“初春”の象徴です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■松〔三光松(サンコウマツ)〕   マツ科/常緑
で冬でも青々としていることから長寿の象徴とされ
る。門松飾りは年神様が降臨する目印といわれ
る。「三光松」は三又にわかれた枝先が綺麗な仕
立てで、短い葉が塊になってつく。
■竹〔金竹〕   イネ科/多年草/温暖で湿潤な
地域に広く分布し、世界に約1300種で日本には
約600種。成長がとても早く、真っ直ぐに育つこと
から縁起が良いとされる。「金竹」はお正月飾り用
に金色に染めたもの。
■梅〔冬至梅〕   バラ科/落葉小高木/中国
渡来種の他、品種改良がすすみ300種以上にな
る。観賞用の“花梅”と実の採取を目的とした“実
梅”に分かれる。「冬至梅」は冬至の頃に開花す
る白色の早咲き品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2521.jpg

【秘書室】
■松〔若松〕 (理事長室と同花材)
「若松」はクロマツの実生苗を密集させ、年月をかけて徒長させ
たもの。若松に比べ年月が経ち太いものを「門松」、若く肩(側
枝〕のないものを「カラゲ松」と呼ぶ。
■千両   センリョウ科/不浄なものを清めるといわれる赤い実
をつけ、“千両”という縁起の良い名前からお正月飾りにかかせ
ない花材。黄色の実をつける「黄千両」もある。「万両」と似ている
が、千両は葉の上に、万両は葉の下に実をつける。
■葉ボタン   アブラナ科/多年草/《名前の由来》幾重にも重
なった葉が牡丹のように美しいことから/キャベツのような観賞
用の植物。寒さに強く、冬のガーデニングに利用される。
■菊〔アナスタシア〕   キク科/多年草/花弁が花火のように
広がった大きな菊。通常の菊と異なり、細く繊細な花弁が特徴。
■菊〔スプレー菊〕   キク科/多年草/茎が分岐し一本に数
輪の花が咲くスプレー咲の菊。品種改良が盛んで、咲き方や色
が豊富。今回はピンポン菊を小さくしたようなボンボン咲きタイプ
を使用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2522.jpg

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