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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.10.18

vol.241  − 浸 (ひたる) −

一雨(ひとあめ)毎に寒さが忍び寄ってきます。

朝まだき、そして暮れ方(くれがた)の薄暗さ、この時季、肌寒さと相俟って、少し人恋しくなります。
朝、建物の廊下には灯りが必要になりました。

         秋立(あきた)つは水にかも似る
         洗はれて
         思ひことごと新しくなる
                           石川啄木

秋は、静かに時が流れます。そんな時、人は自らを振り返り、そして再び歩き出します。

夜の車窓、窓に触れると寒気を感じます。外の景色の他に、車内の反対側や車窓の景色までもが映ります。まるで、万華鏡のようです。

会津の里では、野分(のわけ)で、稲が倒れている田圃(たんぼ)がありました。
見渡す限りの田圃、煙が立ち上(のぼ)り、夕刻の陽が大地に降り注いでいます。日差しの色が、人の心まで嫋(たお)やかにしてくれます。

「小さな関心の喪失」の積み重ね、“感性の低下”に挑戦しなければと、「国宝 興福寺仏頭展」に足を運びました。
学生時代の旅、興福寺で出会った旧山田寺の凜とした仏頭に感激しました。当時の気持ちの高ぶりを再び得たいと思いました。

その頃、阿修羅像に惹かれた記憶がありません。みている筈ですが、亀井勝一郎の「大和古寺風物詩」や和辻哲郎の「古寺巡礼」にも載っていなかったように記憶しています。
「美」をそこに最初に見出した人の感性に想いが及びます。

その頃、奈良は、京都とは違った鄙寂(ひなさび)ともいうべき空気が流れていました。
時の積み重ねとともに、様々なモノが我が国に入り込み、文明は変わってきています。しかし、中心にある文化は動いていません。
地勢、形あるもの、美、そして世情は移ろいゆくものです。それだけに、“移ろわぬこと”、“変わらないこと”は、心に安らぎを与えてくれています。

敬愛する友に招かれて間近に見学できた御水取り(修二会〔しゅにえ〕)、この伝統行事は、悠久の昔から変わらないコトの代表です。
普段は、このあたり一帯は静寂に包まれています。二月堂付近の散策路は、我が国を代表する散歩道ではないでしょうか。

崩落前の像の高さに合わせたのでしょうか、仏頭は高く、しかも360度どこからも鑑賞できるように設(しつら)えられていました。
発見もありました。左右からみると微妙に表情が違い、左右対称の表情ではありません。
邪気の無い、凜とした勁(つよ)い意志を持った顔、いつみても心洗われます。

久し振りにみた木造十二神将立像(もくぞうじゅうにしんしょうりゅうぞう)、東寺のそれと双璧です。
十二神将立像をみると、何故かいつも波夷羅大将立像(はいらたいしょうりゅうぞう)に惹かれます。

東日本大震災復興支援特別展「若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」が福島で開催されていました。コレクターが最初に買った若冲の作品が「葡萄図」ということを初めて知りました。
   (vol.49  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=74
相国寺の承天閣美術館に常設展示されている葡萄の障壁画と同じ構図です。何故か、「鷲図」に代表されるモノトーンの若冲に惹かれます。

10月12日(1694、元禄7年)、松尾芭蕉が大阪の地で没しています。享年50歳です。

10月17日(1849、寛永2年)、ショパンが39歳の生涯をパリで終えています。
別れの曲、ノクターン第2番変ホ長調(我々の世代には「トゥ・ラヴ・アゲイン」で有名)や幻想即興曲を若い頃はよく聴き、今も聴くと感傷に浸ってしまいます。

今週の花材は、執務室、秘書室とも縦の線が強調されています。
尾形光琳の「燕子花図(かきつばたず)」屏風に通じる佇まいです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)




〔※註:伊藤若冲の名前“ちゅう”はJIS第2水準の漢字のため、閲覧環境により表示されない場合があります〕

今週の花


【理事長室】
■ダリア〔愛ちゃん〕   キク科/多年草/《名前の由来》スウェーデン
の植物学者ダールの名から/世界で3万種以上もあり、品種がとても
豊富。花径が3cm程の小輪から30cm以上にもなる巨大輪まである。
「愛ちゃん」は濃いピンク色。
■グラジオラス〔アドレナリン〕   アヤメ科/球根植物/1000を超え
る園芸品種があり、花色がとても豊富。1m程の草丈で、漏斗状の花を
花茎いっぱいに次々と咲かせる。「アドレナリン」は淡いピンク色。
■ヒペリカム〔セルバロマンス〕   オトギリソウ科/半常緑低木/花
期は初夏で黄色い花が咲く。主に花後の実を楽しむものとして流通。
実は赤系を中心に白・ピンク・赤・茶・オレンジなど。「セルバロマンス」
は緑色の実。
■リュウカデンドロン〔ゴールドストライク〕   ヤマモガシ科/《名前の
由来》ギリシャ語で“白”(リュウカ)と“木”(デンドロン)から/花弁のよ
うに見える部分は苞葉で、その中に花序がある。非常に花持ちがよく、
ドライフラワーにも適す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2411.jpg

【秘書室】
■カラー〔ブラックアイビューティ〕   サトイモ科/球根植物/《名前の
由来》メガホン状の苞がYシャツの襟〔カラー〕に似ていることから/江戸
時代にオランダから渡来し、「阿蘭陀海芋」(オランダカイウ)の別名を持
つ。苞の中にある棒状の部分が花。「ブラックアイビューティ」はクリーム
色で、苞を覗くと花序が黒い瞳のように見える品種。
■ヒペリカム〔マジカルピンク〕   (理事長室と同花材)
「マジカルピンク」は淡いピンク色。
■ピンポン菊   キク科/多年草/ピンポン玉のように真ん丸に咲く
可愛い菊。日持ちの良い菊の中でも、特に長く楽しめる品種。今回はピ
ンクとグリーンの2色を使用。
■モンステラ   サトイモ科/蔓性植物/成長するにつれ、葉に切れ
込みや穴が開く。独特の葉形が面白く、モチーフとしても人気の熱帯植
物。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2412.jpg

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