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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.04.19

vol.218  − 慈 (いつくしむ) −

夕暮れ時、対岸の桜を愛でようと、堰堤(えんてい)を散歩していると、雲雀(ヒバリ)と鶯(ウグイス)の声を耳にしました。大気は、春の気配に満ち満ちています。

一陣の風と一夜の雨が生き物に春を告げています。大地が俄(にわか)に色を帯びています。
庭では、山桜が楚々として立ち尽くしており、辛夷(コブシ)の白や薄桃色、木蓮の紅紫、海棠(カイドウ)の薄紅、ライラック(りら)の薄紫、そして長く咲いてくれている木瓜(ボケ)の真紅、木々の花々の協演が目を引きます。

見霽(みはる)かす那須野が原、辛夷と桜が広大な田園に点在しています。
開拓の時に植えたのか、あるいは野生なのか分かりません。車窓からのこの景色、早春の那須を代表する風景です。列をなしている桜は、そこが廃校跡地であったり、役場跡であったことを知らせています。
この時季、彩色豊かな点在は、映画「シェルブールの雨傘」の色彩美を連想させます。この時季、あれは幻だったかと思える程、無彩色(むさいしょく)だった大地を様々な色が覆っています。
時は、駆け足で春がやって来て、早や、次の季節に向けて驀地(まっしぐら)です。

入学式で、教育を考えさせる光景を経験しました。
入学許可では、一人一人、名前が読み上げられて立ち上がります。その際、返事をしない学生、しても小さな声で聞こえない人、きちんと返事をして一挙手一投足に折り目を感じさせる子など、様々です。只、多人数とはいえ、私の方向を向いて眼を合わせる学生が少ないことに違和感を覚えました。
そんな中、只一人、男子の入学生が、はっきりとした返事で立ち上がり、私の方を向き、頭を下げて挨拶をしました。爽やかなこの光景を目にした時、一陣の爽やかな風が、私の心の中を吹き抜けました。

式の後の会合で、この話を仲間に話しました。驚いたことに、唯一人、この光景をみていた人が居たのです。
世の中、視ている人は視ているものです。

この学生の背景にはどんな歴史があるのか、どのような環境で育ったのだろうかとの思いが胸を過ぎりました。御両親はもとより、恩師、仲間、地域の人々、彼を慈(いつく)しんでいる光景が想像出来ました。
私は、教育論には門外漢です。只一点、理解出来るのは、教育とは学校だけの問題でなく、家庭や地域、もっと大袈裟に言えば世間全体で育(はぐく)むものであるということを、この時改めて実感しました。

4月15日(1910)、初めての国産潜水艇が沈没した日です。
乗組員の全員が死亡しました。艇が引き揚げられた際、全員が持ち場についたままだったこと、そして佐久間勉艇長の遺書が、人々の涙を、今も誘っています。
ここにあるものは、教育でつくられたものなのでしょうか…。この事故の際の乗組員の最後まで保った凜とした佇まいは、現代の我々に色々な事を問い掛けています。

4月13日(1912)、石川啄木の命日です。

今週の花材は、執務室は爽やかな春の風を、秘書室は春の暖かさを表しているようです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■テロピア〔ワラタレッド〕   ヤマモガシ科/常緑低
木/原産:オーストラリア/《名前の由来》“赤い花の
木”を意味するアボリジニの呼称/ワイルドフラワー
独特の存在感のある大きな花。シドニーオリンピック
でメダリストに渡したブーケに使用され注目を集める。
■サンダーソニア   ユリ科/球根植物/原産:南
アフリカ/細い茎にベル型の小さな花が連なって咲
く。ランプを灯したようなオレンジ色の可愛い花姿。
■アンスリュウム〔モーメント〕   サトイモ科/常緑
多年草/原産:熱帯アメリカ/光沢があり造花と見間
違うような花。花弁のように見える部分は苞で、棒状
の部分が花。
■モルセラ   シソ科/一年草/原産:シリア/ミン
トのような芳香がある。爽やかなライトグリーンと独特
の茎のラインが特徴。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2181.jpg

【秘書室】
■フリージア〔アラジン〕   アヤメ科/球根植物/原産:南アフ
リカ/甘い香りを放つ春の花。花茎に8〜10輪程の花をつけ、
次々と開花する。
■カーネーション〔サンタフェーオレンジ・ジョーレー黄色〕
ナデシコ科/多年草/原産:地中海沿岸/江戸時代にオランダ
から渡来。母の日に贈る花として古くから親しまれる。
■ヒペリカム〔シュガーフレア〕   オトギリソウ科/半常緑低木
/初夏に黄色い花が咲く。花後の実を鑑賞するものとして切り花
で流通。花色は赤を中心に白〜ピンク、茶や緑など多品種ある。
■ハラン〔旭ハラン〕   ユリ科/多年草/江戸時代から生け花
の材料として使用。「旭ハラン」は葉の先端に白い斑が入る。他に
縦縞の「シマハラン」、点々の斑が入る「ホシハラン」もある。
■テマリ草   ナデシコ科/多年草/原産:ヨーロッパ東南部/
マリモや芝を想わせる独特の花姿。ふさふさした部分は花・雄し
べ・雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2182.jpg

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