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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.01.18

vol.205  − 憧 (あこがれ) −

暁方、いまだ濃い闇の中、玄関を出て澄み切った空を見上げると三日月が輝いていました。
“有明の月”とは時季、時刻も異なりますが、一幅の絵です。
 
         きはまれる晴天はうれひよぶならん
         出でて歩めば冬の日寂し
                            佐藤佐太郎

この歌の「日」を「月」に読み換えると、風景、心境、この歌そのままの情景です。

5年振りという大雪、市内も大学構内も備えがないだけに、大混乱でした。

花だより、書き続けて4年、今、周囲の風景に目が行き、「裡(うち)なる声」と対話するようになりました。
風景を愛でることは、心に余裕を持つことです。
心に余裕ができると、日常での何でもないことが、掛け替えのない大切なものであることに気付きます。
人生では、波瀾万丈は決して良いことではありません。しかし、残念ながら、変わることなく過ごせることは難しいのが現実です。そんななかで、自然だけが、黙々と、季節で求められる変化を健気(けなげ)に、そして正確に果たしていることを愛(いと)おしくさえ感じます。

雲が低く垂れ籠め、盆地の景色を覆い尽くしている日々は、何もかもが鼠色に煙(けぶ)ってみえます。
こんな時、山間(やまあい)の小さな町に育った所為(せい)か、無性に海がみたくなります。

         冬の日の眼に満つる海あるときは
         一つの波に海はかくるる
                            佐藤佐太郎

         冬の海にうねりあひたる大きうねり
         ひまなくうねり山なせるかも
                             若山牧水

こんな光景を胸に思い描くだけで、少し心が安らぎます。

去年のノーベル賞授賞式は、日本人が栄誉に浴したので、多くの人が式典を目にしました。
先年、私が名誉学位をスウェーデンのある大学から戴いた時も、式典の様式はノーベル賞のそれと同じでした。男女の大学生が正装して学帽をかぶり、旗を捧(ささ)げ持って、受賞者や関係者を式典会場に先導します。

私の時の式典では、主催者の挨拶は、ラテン語でした。
私のような小柄な日本人に、シルクハット、燕尾服は、「貧相なチャップリン」です。それを言ったら、周囲から「それよりは少し良い」と言われたのも、懐かしい想い出です。

このような式典の荘厳(そうごん)さを経験している立場の視点から、本学でも、学位とか表彰にもっと厳粛さを持たせたら良いのにと、以前から、思っていました。今は自分の出来る範囲で、賞状の質や式の設(しつら)えを、人生の節目に相応(ふさわ)しく、受賞者の心に残るように努力しています。
何故なら、式典は組織や個人にとっての節目です。そして、本人にとっては生涯の晴れ姿、人生の思い出の一つとして長く残る筈だからです。

「OK牧場の決闘」で有名になったワイアット・アープが1月13日に80歳で死去しています(1929)。
彼が、20世紀、昭和の世に入っても生きていたこと、そして長寿を全うしたということに驚きます。

今週の花材は、執務室は早春を代表する花木で、伸びやかな枝振りです。
秘書室は、白、緑、赤、そして紫の対比が鮮やかです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■木瓜(ボケ)   バラ科/落葉低木/渡来
当初は薬木として利用。明治〜大正になって
から鑑賞されるようになる。球形の実は果実
酒や鎮痛剤として利用。庭木や盆栽での人気
が高く、切り花でも長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2051.jpg

【秘書室】
■デルフィニュウム〔ライラックキャンドル〕   キン
ポウゲ科/多年草/原産:ヨーロッパ/ブルー系
の花色が豊富で、ヨーロッパを中心に250種程分
布。シネンシス系、ベラドンナ系、ジャイアント系に
分類される。今回は草丈が一番高く、八重咲の花
を穂状につけるジャイアント系を使用。草丈、花穂と
もに大きく華やかで、ディスプレイに最適。「ライラッ
クキャンドル」は綺麗な薄紫色。
■OHユリ〔シベリア〕   ユリ科/球根植物/優
雅な花姿と芳香が特徴のオリエンタルハイブリッド
種。「シベリア」は白色の人気種。
■モンステラ   サトイモ科/蔓性植物/《名前
の由来》ラテン語の“モンストラム”(異常・怪物)か
ら/成長するにつれ、葉の縁から葉脈にかけて深
い切れ込みや穴ができる。独特の葉型が面白く、
モチーフとしても人気の熱帯植物。
■アレカヤシ   ヤシ科/原産:マダガスカル/
原種は10m以上にもなる高木。1〜3mほどの幼
樹がインテリアグリーンとして流通。生育が盛んで
丈夫なため、公共施設などでよく利用される。切葉
でも長く楽しめる。
■ベアグラス   ユリ科/原産:北アメリカ/細く
長い線状でしなやかな葉。束ねたりカールさせたり
と、いろいろな利用ができるグリーン。非常に丈夫
で、籠を編む材料に使用される。

※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2052.jpg

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