HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2012.11.30

vol.199  − 静 (しずか) −

冬の到来を告げる、時雨の季節になりました。時雨は、虹を連れてきてくれます。
先日も、高台から盆地の底にある市街地へ向かう時、市街地を一跨ぎするような壮大な虹に出逢えました。

時雨をみると、1年が終わるというのに年齢だけ重ねて暮れていく自分が情け無く、落ち込む時季でもあります。只、歳を取ることは悪いことばかりではないことは前号に書きました。

         けふばかり人も年よれ初時雨
                          芭蕉

この歌は、歳を重ねて初めて達する境地です。
   (vol.12 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=27
今は、

         かぞふれば年の残りもなかりけり
         おいぬるばかりかなしきはなし
                             和泉式部

心に余裕がなく、このような心境です。

時雨や雨は、景色をふくよかなものにしてくれます。
舞い落ちる落葉、雨に濡れた紅葉、そして求められた仕事を終えた田圃は、初冬を代表する風景です。

時雨時、福島では、内陸部に位置している西の嶺々は雨に煙(けぶ)り、麓まで白のベールで覆われています。一方、太平洋側の上空は青空で、山々は太陽の光で輝いています。

この時季、樹々の彩りは、みる人に静かな笑顔をもたらします。主張せず、只、滅びゆくなかに沈黙の華やぎをみせているからでしょう。

「シャルダン展−静寂の巨匠」に行ってきました。
ルオー(vol.197 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=233)とは時代も異なりますが、“暖かさ”に違いがあるようです。ルオーは、ストーブ、あるいは夕陽の暖かさを感じさせるのに対して、シャルダンのそれは、初冬の日溜まりのようです。沈黙が、小さな画面を支配しています。
彼の作品は、失って初めて気付く、平凡だけど、変わらないことの大切さを説いています。「木いちごの籠」、「羽根を持つ少女」、「食前の祈り」は、そこだけ時間が止まっているようです。
自分も、このような静寂さを常に保っていれば良いのですが…。

大阪出張の際、20分!で東洋陶磁美術館を訪れました。
訪れる度に発見があります。開館30周年記念展「国宝  飛青磁花生と国宝  油滴天目茶碗 −伝世の名品-」が開催されていました。
並べてあるのをみるのは初めてです。油滴天目茶碗(ゆてきてんもくちゃわん)の金、銀、紺の油滴斑は華麗で、一般展示されている木の葉天目の渋さと好対照です。飛青磁花生(とびせいじはないけ)は、発色と形、優美の一言に尽きます。

11月27日(1992)は恩師I.Macnabの命日です。
彼の一編の論文に出逢わなかったら、そして彼の下で修業しなかったら、今の自分はありませんでした。
彼の「努力できることも才能の一つである」という激励は、私の若い人々への教育指針です。
彼が、英語も陸(ろく)に出来ない、東洋の異国から来た若い弟子に、どれほど真摯に向き合ってくれたか、彼の立場や年齢になって初めて分かります。
1人でもいい、自分を慕ってくれる弟子をつくれたら、「一弟子を得ば  以って恨なかるべし」です。

今週の花材は、執務室は赤、秘書室は緑が主体です。
典雅という点では同じです。教会のゴシック様式のように勢いが天に伸びています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■赤芽柳(アカメヤナギ)   ヤナギ科/落葉高木/《名前の由来》花芽が
赤いことから/日本の山野に自生。猫柳と山猫柳の雑種。赤い花芽の皮が
取れると、銀白色のモコモコした花穂があらわれる。
■グロリオサ   ユリ科/球根植物/《名前の由来》「栄光」や「見事な」を
意味するラテン語の“グラリオラス”から/花弁が反り返り、赤く燃えあがる
炎のような花姿。半蔓性の植物で、葉先が巻きヒゲになり、支柱や他の植
物に絡んで成長する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1991.jpg

【秘書室】
■雪冠杉(セッカンスギ)   ヒノキ科/《名前の由
来》新梢(しんしょう)が雪をかぶったように見えるこ
とから/鮮やかな緑色で葉先がクリーム色になる。
クリスマスにぴったりなグリーンで、アレンジや花
束、リースに利用。
■ユリ〔シベリア〕   ユリ科/球根植物/大輪咲
の白色のユリ。優雅な花姿と芳香で人気のオリエン
タルハイブリット品種。
■葉ボタン   アブラナ科/《名前の由来》幾重に
も重なった葉が牡丹のように美しいことから/キャベ
ツのような観賞用の葉。大輪小輪や紅葉、白葉、縮
れ葉など多品種ある。寒さに強く、花の少ない時期
に花壇を彩る。
■リューカデンドロン   ヤマモガシ科/原産:南
アフリカ/《名前の由来》ギリシャ語の白(リュウカ)
と木(デンドロン)から/花弁のように見える部分は
苞葉で、その中に花序がある。非常に花持ちが良
く、ドライフラワーにも適す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1992.jpg

▲TOPへ