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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.08.24

vol.185  − 慟哭 (どうこく) −

蝉の鳴き声が大気に満ちて、場所によっては蜩(ヒグラシ)も聞こえてきます。
夏が終わります。夜明けも遅くなってきました。

帰宅して門扉を開けるとオハグロトンボが三匹、生垣の上を舞っていました。
   (vol.38 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=62
   (vol.88 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=114
   (vol.132 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=165

去年は、1か月程早くみました(2011年7月15日)。トンボの個体は違う筈なのに、同じ季節、同じ場所に毎年現れるのは、何のなせる技なのでしょうか。生の不思議さを感じます。

一方、蝉の骸(むくろ)があちらこちらにみられます。刹那の一生です。
この時季は、お盆や終戦記念日と重なり、生と死を考えさせられます。

         今年は例(つね)よりも異(こと)にして
         腸(はらわた)先ず断(た)ゆ
         これ蝉の悲しぶのみにあらず客(かく)の意(こころ)も悲しぶなり
                                                菅(くわん)

         歳去り歳来(きた)つて聴けども変ぜず
         言ふことなかれ秋の後(のち)に遂に空しく為んなむとすといふことを
                                                紀(き)

和漢朗詠集のこれらの歌、原発事故以来の混乱の中に身を置いた時、その年には何の感慨が湧く暇もなく過ぎてしまいました。しかし、再びのこの夏、これらの歌が心の裡(うち)に深く染みてきます。

この時季だからこそ、共に闘ってきた仲間と、ここまでの努力と明日への覚悟に乾杯したくなります。
旅には道連れ、人生には師、そして仲間には酒です。こんな時は、シャンパンが一番似合いそうです。
洋画(今は死語でしょうか)では印象的な場面にシャンパンがよく登場します。
   (vol.129 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=162

一方、この時季は、「風立ちぬ、いざ生きめやも」(堀辰雄「風立ちぬ」)の透明感のある高原の空気が実感できる時でもあります。往(ゆ)く夏を惜しむ心情と重なります。

先日、執務室に汽笛が聞こえてきました。
空耳かと思っていたところ、また聞こえてきました。後日、新聞でSLの試運転があったことを知りました。
断続的に鳴り響く汽笛は、私の世代から上では郷愁を呼び起こします。
私より若い世代では、現役の汽車は経験がない筈ですから、汽笛にどんな感情を抱くのか、あるいは心の細波(さざなみ)は全く起きないのか関心があります。

         雨に濡れし夜汽車の窓に映りたる
         山間の町のともしびの色
                           石川啄木

このような景色、汽車(ディーゼルカー)で通学していた高校時代、何度かみました。
   (vol.50 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=75
   (vol.106 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=134
   (vol.160 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=194

福島では、この時季、戊辰戦争の記念行事が行われます。南会津の病院に勤務していた昔、古老から「先の戦(いくさ)」が戊辰戦争を指していることを知り驚きました。

会津白虎隊(8月22日出陣)、戊辰戦争最大の激戦といわれた戦に臨んだ二本松少年隊(二本松は本学から車で10分程のところです)、あるいは鶴ヶ城の籠城などの悲劇が今に知られています。

今週の花材は、執務室、秘書室とも楚々とした涼やかさを感じさせてくれます。
秋近しです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■紅孔雀粟(ベニクジャクアワ)   イネ科/
一年草/縄文時代には栽培され、稲(米)より
先に主要な食糧となる。エノコログサ(猫じゃら
し)から分化したとされる。夏から秋にかけて
円錐状の花穂を付ける。

■ソラナム〔ブラックパール〕   ナス科/一
年草/原産:アフリカ/「ソラナム」は“観賞用
のナス”を意味する、約1700種あるナス科ナ
ス属の総称。一枝にプチトマトのような実をたく
さん付ける。「ブラックパール」は名前の通り、
黒真珠のような光沢のある黒色の実がなる。
■アンスリュウム〔シンシア〕   サトイモ科
/常緑多年草/蝋細工で出来ている造花の
ような、南国の花。花弁のように見える部分は
苞で、中心の棒状が花。主に苞を鑑賞するた
め、非常に長く楽しめる。「シンシア」は綺麗な
純白の品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1851.jpg

【秘書室】
■カラー〔ホットショット〕   サトイモ科/球根
植物/原産:南アフリカ/《名前の由来》苞が
Yシャツの襟(カラー)に見えることから/花弁
のように見える部分は苞で、その中にある棒
状の部分が花。「ホットショット」は黄〜橙色の
シックな花色の品種。
■アンスリュウム〔サファリ〕   (理事長室と
同花材)「サファリ」は赤茶色の苞に白い縞模
様に入った、個性的な品種。
■ドラセナ・サンデリアーナ   リュウゼツラン
科/笹のような細長い葉とストライプの斑が特
徴。原産地では4〜5mにもなる観葉植物。日
本ではテーブルグリーンとしてミニサイズが人
気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1852.jpg

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