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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.06.15

vol.177  − 麦秋 −

この時季、鉄路からみる田園風景は一年のうちで最も華やかです。
屋敷や鎮守の杜(もり)の青葉は濃く、見渡す限り広がっている水田では、湿った大気の下、水と早苗が織りなす光の模様が展開しています。そんな中、緑の穂が黄色くなり収穫の時期を迎えた麦畑が所々に広がっています。田の緑と麦の黄色の対比は、自然の抽象絵画です。
そんな風景の中、機械で刈り入れをしている老夫婦が居ました。
穏やかな色彩の下、農作業は、時代は変わっても営々と継承されてきた人間の営みです。

            麦畑だ。
            楢の林だ。
            高圧線の大鉄塔だ。
            六月だ。
            野だ。
                       (矢代東村(やしろ・とうそん))

太陽が傾くにつれ、黄金色の日差しが、辺りの景色を赤みの強いセピア色に染め上げていきます。
人々の表情や立ち振る舞いも、一時、懐かしさを帯び、優雅にさえみえます。

学会が戦場でなくなった今、合間に、クレラー・ミュラー美術館に足を運びました。
今の所から近いことを知った時、贈り物を貰った気分になりました。この機会を逃すと一生行けないと思いながら、交通の便の悪さに逡巡(しゅんじゅん)していました。ホテルのスタッフに車で行くことを勧められ、決心しました。

この美術館は、オランダのドイツ国境に近い国立公園の中にあります。
地平線を伴った雄大な田園地帯の果てに森が顕れてきました。入口で、“品の良いヒッチコック”のような銅像が迎えてくれました。ガラスを壁面に多用し、水平線を強調した平屋の建物が、森の中に佇んでいました。

木々の香り、肌に触れる乾いた風、透明度の高い空気が、美術館を一層魅力的にしています。
館内には、ゴッホ、モンドリアン、スーラ、シニャックなどが、さり気なく展示されています。ゴッホの「夜のカフェテラス」には何人かの人々が見入っていました。
   (vol.57 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=83
運転手さんから、BBCの番組取材の際、担当の老婦人がゴッホ美術館より上という評価をしていたという話を聞きました。
美術館の散策中、ゴッホを無名の時に発見した彼女の審美眼について考えていました。今なら、私を含めどのようにでも感想を述べることはできます。しかし、何もないところでの彼への高い評価をした彼女の眼と勇気は、どうしたら身につくのでしょうか。

エルミタージュ美術館のアムステルダム分館にも、散歩がてら訪ねました。
分館、オープンしてから3年というのであまり期待していませんでした。行ってみたら、嬉しい誤算でした。
立地、庭、建物、そして企画展(ルーベンス、ヴァン・ダイク、ヨルダーンス展)は、一見の価値ありでした。中庭で市民が寛(くつろ)いでいるのをみて納得できました。
特に、建物の設計と中庭の有り様は、どのようにしたら人間に寛ぎを与えられるかを教えてくれているように感じました。

今週の花材は、執務室、秘書室ともに前号の正岡子規の詩を体現しているような涼やかさを醸しだしています。執務室の花器に用いた魚籠(びく)は、技術の断絶を惜しんで昔作って戴いたものです。
秘書室のバカラの花器と好一対(こういっつい)です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■アンスリュウム〔プレビア〕   サトイモ科/
常緑多年草/花弁のように見える部分は苞
で、中心の棒状の部分が花。熱帯原産の花
で、暑さに強く長く楽しめる。アンスリュウムは
ハート型の品種が多いが、「プレビア」はすっと
した花形で「チューリップアンス」とも呼ばれ
る。
■ワイルドオーツ   イネ科/多年草/原
産:北アメリカ/ゆらゆらと風になびく小判型の
花穂が特徴。枯れても散らず、そのままドライ
フラワーで楽しめる。
■スチールグラス   ユリ科/原産:オースト
ラリア/ワイヤーのように細く長く硬い葉。シャ
ープなラインを描くのに最適なグリーン。
■ナルコラン   ユリ科/多年草/原産:日
本/緑地に白い斑の入った涼しげな葉。4〜5
月頃にスズランのような花が咲く。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1771.jpg

【秘書室】
■ギガンジュウム   ユリ科/原産:中央アジア/ネギ
坊主のような紫色の球状花。小さな花が密集して咲き、開
花が進むにつれ球形が大きくなる。ネギ属なので、ハサミ
をいれるとネギの香りがする。
■アワ   イネ科/一年草/五穀の一つ。米より昔から
栽培され、稗(ヒエ)とともに主要な食糧だった。エノコログ
サ(猫じゃらし)から分化したとされる。夏から秋にかけて
円柱状の花穂をつける。
■アンスリュウム〔スノー〕   (理事長室と同花材)「スノ
ー」は真っ白の品種。
■ナルコラン   (理事長室と同花材)
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1772.jpg

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