泌尿器科・副腎内分泌外科 病院助手 加山 恵美奈

今坂先生

 私は初期臨床研修を修了後に他大学の泌尿器科学講座に入局し、大学病院および関連病院で修練し専門医を取得しましたが、結婚を機に福島県に移住、福島医科大学泌尿器科学講座に入局させていただきました。福島に来るまでは基礎研究は全く行っておらず、臨床研究で原著論文を2本、症例報告を1本執筆していたのみでした。福島医科大学泌尿器科学講座の同世代の先生方が積極的に基礎研究をされているのを目の当たりにして、基礎研究と臨床研究を橋渡しできるような、いわゆるトランスレーショナルリサーチができればと思うようになりました。当講座の小島祥敬先生に、膀胱癌のDNAマイクロアレイのデータがTRセンターの御協力によって蓄積されていることをお聞きしたことも学位論文研究を始めるきっかけとなりました。恵まれていたのは、郡山市の太田綜合病院附属太田西ノ内病院で泌尿器科常勤医として勤務しながら、週1回研究日として当講座で研究できる環境を小島先生からいただけたことであり、研究日があることは臨床と研究を両立させるのに大きなアドバンテージになりました。

 研究内容を簡単に説明します。筋層非浸潤性膀胱癌は一般的に再発しやすいことが知られていますが、臨床病理学的因子だけで再発を予測するには限界があり、分子生物学的側面から再発を予測することが求められています。学位論文研究では、膀胱癌のマイクロアレイ解析により再発に関連する遺伝子を同定しました。それらの遺伝子発現を用いた新たな再発予測スコアリングシステムを構築し、検証用コホートでも高スコア群で再発率が高いことを示しました。この過程でTRセンターからいただいたデータを解析する方法を身につけられたこと、またRT-qPCRなどの実験手法も学べ、有意義な経験となりました。ある程度結果が出た時点で、第110回日本泌尿器科学会総会で発表することになりましたが、研究内容を明確に伝えるためにぎりぎりまでポスターとスライドの修正を続けました。臨床業務を続けながらの準備でしたので、学会直前は睡眠時間が2-3時間しかとれないことも度々あり体力的にはきつかったですが、総会賞を幸運にもいただくことができ今後の研究に対するモチベーションになりました。
 学会発表後に追加実験を終え、論文執筆にとりかかりました。特にDiscussionを執筆する際は、論旨をどう組み立てるか、先行文献と自分の研究内容の違いをどう訴えるかということにかなり苦慮しましたが、最終的には納得のいく内容になったと思います。学会発表と違って学位論文の執筆には完成〆切がありません(大学院生は卒業までにアクセプトさせなければいけないという〆切があると思いますが)。ともすれば臨床業務が忙しいこと言い訳にして伸ばし伸ばしにしそうになる自分がいましたが、今後妊娠・出産をするライフプランもまだ諦めていなかったので、なんとかその前に論文を仕上げようと自分を鼓舞していたように思います。お陰様で論文がアクセプトされた後に妊娠が判明、出産予定日の5ヵ月前に論文博士として学位を取得できました。粘り強くご指導してくださった、当講座特任教授の植村元秀先生にも大変感謝しております。 
 当初は大学院に入って基礎研究に専念する期間を設けることも考えましたが、私の場合は学位論文研究を開始する時期が他の先生方よりも遅かったため、臨床と両立させながら論文博士として学位を取得する道を選びました。臨床業務の後に論文執筆を進める、余暇を研究に使うなど臨床と研究の両立は大変でしたが、研究しながら外来・手術・病棟業務といった診療もこなすことで臨床能力も維持・向上させることができたのは大きなメリットだったと思います。この方法が後輩の皆様のロールモデルになるかは分かりませんが、選択肢の一つにはなり得るかもしれません。

 10年後の自分については、正直言ってまだ分かりません。泌尿器科の面白みは、診断から薬物治療・手術まで、症例に対して最初から最後まで関われることだと思います。その中で自分が疑問に思ったこと、すなわちクリニカルクエスチョンが浮かんでくるので、それに答えられる研究をしたいです。今後も臨床業務と両立させながら、積極的に臨床データや検体を蓄積した上で臨床研究やトランスレーショナルリサーチを地道に行っていきたいと思います。

 紆余曲折あった私からのメッセージが参考になるかは分かりませんが、これから学位を取得しようとされている先生方には得られた機会を十分に活用してぜひ研究を楽しんでいただきたいです。もちろん、期待している結果がなかなか出ない、論文執筆に難渋するなど、苦労も多いです。しかし、学位論文研究を行う過程でリサーチマインドを身につけることは自分の診療内容を深めることにつながり、ひいては患者さんにも大いに貢献できるのではないかと思います。

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