放射線科 病院助手 原 純子
私は2018年に本学を卒業後、附属病院での初期研修を経て放射線医学講座に入局しました。大学院には放射線科2年目にあたる2021年4月に入学し2025年3月に卒業しました。この度「学位取得を考えている女性医師・研究者へ伝えたいこと」というテーマで執筆依頼をいただきました。既にロールモデル集に掲載されている先輩方と比べると、まだ医師としても研究者としても未熟な私ではありますが、少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。
私は幼い頃から両親に人のために生きることの大切さを教えられていたので、自然と将来は人の役に立つ仕事がしたいと思うようになりました。そしてその仕事は自分の興味のあることであり、かつ自分の長所を生かせるものであることが重要だと考えました。そんな中、小学校の図書室で出会った手塚治虫さんの漫画ブラック・ジャックに憧れて医師を目指すようになったため、医学部入学当初は外科系に進みたいと考えていました。講義や実習の中で、「臨床をやるとしても研究の経験が役に立つからやった方がいいよ」とおっしゃる先生方が多かったので、自分もそうしたいと思っていました。Advanced BSLで放射線科を選択した際、画像診断を通して頭から足先まで、子どもから大人まで幅広く診られる点に魅力を感じました。ほとんどの科がスキルアップに診察、手術といった患者さんとの直接の関わりが重要で、その経験を積める場所は院内に限定されることが多く、時間を自由にコントロールすることは難しいと思います。一方、放射線科の主な仕事である読影は、患者さんを目の前にしなくても、モニターで過去から蓄積された多くの画像を見て正常と異常を区別すること、教科書で診断のプロセスやまれな疾患の画像の知識を増やすことで上達できます。様々なライフイベントに際しても、周囲との遅れを気にしすぎず仕事を続けていけると思い、放射線科を選択しました。
放射線科の研究では、画像を後方視的に解析することが多いです。基本的な読影技術を身につけてからの方が円滑に研究できるだろうと考え、大学院の入学時期は伊藤教授と相談し、放射線科で1年間経験を積んでからに決めました。学位論文研究のテーマは、石井准教授から提案頂き「右副腎静脈の下大静脈流入部の呼吸性変動」にしました。原発性アルドステロン症患者さんに対してホルモンの過剰分泌の局在診断のために行われる副腎静脈サンプリング(Adrenal venous sampling : AVS)というカテーテル検査があります。両側の副腎静脈から採血を行うのですが、下大静脈に直接流入する右副腎静脈は、左副腎静脈と比べてカテーテルでの選択に難渋することがしばしばあります。AVS術中の右副腎静脈の高さが術前CTでの予測と一致しないことがあり、呼吸性変動が一因と考えられていましたが、吸気CTと呼気CTで比較した報告はありませんでした。これを検討し、吸気CTと呼気CTで右副腎静脈の高さが20mm程度変化すること、術中の右副腎静脈の高さは吸気CTより呼気CTに近いことなどを論文にまとめました。統計解析から英語論文の作成、投稿手続き、査読者とのやり取り、何もかもが初めてでしたが、まず自分で調べながらやってみて、行き詰まったら上司に相談するというサイクルを繰り返しました。大学院2年目は関連病院勤務でしたが、週1日の研究日を頂けたことに加え、副腎静脈サンプリングを含めた画像下治療(Interventional Radiology:IVR)を専門とされる上司との出会いもあって大きく前進した1年でした。大学院3年目は大学病院に戻りましたが、新専門医制度基本領域の放射線科専門医試験の年でもあり、試験勉強や日常業務と研究の両立の難しさを経験しました。やっと仕上げた論文を投稿しても何度もrejectになり、先が見えないと感じる時期もありました。そんな時は、医師になりたいと思った動機や、「小さな積み重ねで医学は進歩していくもの」という上司の言葉や姿勢を思い出し、モチベーションの維持に努めました。また、投稿直後はひとまず頑張った自分へのご褒美を買ったり、趣味の時間を増やしたりして過ごしました。
学位論文が受理された後は、時間に余裕があるうちに取得したいと思っていた画像診断関連のいくつかの資格を取得し、2025年8月には放射線科医として一番重要とも言えるサブスペシャルティ領域の放射線診断専門医試験に合格することができました。医師という職業はなりたいと思っても誰もがなれるものではないだけに、多くの人々の期待に応える責任があると思っています。プレッシャーにも感じていましたが、学位取得の過程を通して、そういった責任を果たすことのできる自分に近づけたと感じます。そんな今の私は、ちょうど放射線科医や研究者として第二段階のスタートラインに立てたところだと思います。皆さん一人ひとりのなりたい未来に近づくための第一歩も学位取得かもしれません。10年後、「自分の長所を生かして為に生きたい」という目標に向かって臨床、研究、教育に取り組んでいる自分でありたいと思うと同時に、共に歩む仲間が1人でも増えていると嬉しいなと思っています。