心臓血管外科学講座 教授 今坂 堅一

今坂先生

私は、1994年(平成6)に九州大学医学部を卒業し、同大学心臓外科に入局しました。心臓外科になろうと思ったきっかけは、臨床実習でまわった時に、手術のダイナミックさ(心臓を止めて手術を行う手術は心臓外科しかありません)と繊細な手術手技に魅了されたことです。また、寝る間もないほど患者につきっきりの生活も当時の私にとって魅力的に映った一因でした(今では、ブラックな勤務生活を指摘されたり、家族に苦労をかけたりするので胸を張って言えることでもないのですが・・・・)。他の科と迷うことなく、小児心臓外科手術で世界的に有名な安井久喬教授がおられる九州大学心臓外科学講座に入局しました。心臓外科医としての日常は非常に厳しいものでしたが、挫折することもなくここまでこれたのは、多くの同僚や先輩方に支えられてきたこと、そして心臓外科領域が好きだったからだと思います。
心臓外科入局後、5か月間大学で研修生活を送り、その後は関連病院で心臓血管外科および一般外科の基礎的経験を積みました。1998年(平成10)に一旦大学に戻り、学位を取るため約3年間臨床研究を行いました。それを論文にまとめた後、再度関連病院(福岡県福岡市、愛媛県松山市、山口県下関市、熊本県熊本市)を周りながら臨床経験を積み、2024年(令和6)に福島県立医科大学 心臓血管外科講座教授に赴任いたしました。

ここまで読んでみた皆さんはどう思われるでしょうか? 私は、巷で言われるような“神の手”を持つ心臓血管外科医ではありません。海外留学の経験もなく、High Volume Centerで技術を磨いてもいません。ごく一般的な心臓血管外科医です。ただ、一人前の心臓血管外科医に早くなりたいと常に思っていましたし、そのためにどのようにしたらなれるのか?と常に自問自答していました。一人前の心臓血管外科医というのは、“自分で手術プランを考え、自分でコントロールしながら手術を行う”ことを指します。その中には当然トラブルシューティングも含まれます。日本の心臓血管外科は施設数が多く、一施設で経験できる症例数が少ないことが欠点のひとつです。また、生命に直結する手術であるため、なかなか若い人に手術をさせづらいという問題もあります。従って、これは若手心臓血管外科医全員が直面する大きな問題なのです。40歳を過ぎた私は、患者の主治医となり助手として毎日を過ごす状態で術者はなかなか回ってきませんでした。一人前の術者になるにはほど遠いと痛切に自覚し、以下のことを自分に課すことにしました。

  1. 受け持ち患者さんの手術の際には、天井に設置されているビデオに記録された手術動画を保存し、術後繰り返し見て、手術の流れを徹底的に把握し、イメージトレーニングを行う。(手術の流れを理解することで、一助手として良好な視野出しができるようになりました)
  2. 術者がつけているHead Cameraからの手術動画も同時に繰り返し視聴する。(術者にお願いして、動画を入手しました。術者目線で、何を注意して手術が行われているかを理解することができ、非常に役立ちました。)
  3. JournalやYouTubeに挙げられている手術動画を繰り返し視聴する(世界的に有名な術者の手術も動画に挙げられているので、留学しなくても手術見学と同じ効果が得られると考えます)。
    (1から3は、経験する手術数が少なくても、何度も視聴することで自分の技術が向上していると実感が持てるようになりました。)
  4. 学会発表を積極的に行い、その結果は必ず英語論文として投稿する(世間に自分のことを知ってもらうために努力することを目的としました)

心臓血管外科手術術後は当直することが多いため、空いた時間は1)~3)の動画を視聴したり、データ整理、学会発表、英語論文作成に充てました。40代はこれらのことに時間を費やし、英語論文(原著)は筆頭として12本書き、心臓血管外科分野で有名なJournalにも複数Acceptされました。その期間には尊敬できる上司がいて、その方に手術や論文の書き方の指導を受けたことも良かったと思います。40代後半からは複雑な心臓大血管手術も任されることが多くなり、前任の九州医療センター(福岡市)では、手術責任者として120-130例/年を行い良好な成績を収めてきた自負があります。
華やかな経歴とは真逆の泥臭い印象を受けると思いますが、こういったキャリアアップの方法もあると思っていただければ幸いです。 “風車 風が吹くまで 昼寝かな”(広田弘毅)という言葉が私は大好きです。壁にぶつかった時には、いつもこの言葉を思い出して医師としての基本形を身に着けようと思ってきました。今後は、いままで培った自分の力を福島県民の皆様のために発揮する時だと考えています。

心臓血管外科は術者だけでなく、チーム医療で成り立っています。全身管理ができるようになるため、重症患者を受け持ったとしても適切に対応できることも魅力の一つであろうかと思います。また、以前のような開胸・開腹手術だけでなく血管内治療も驚くほどのスピードで進化を遂げています。長時間手術も確かにありますが、血管内治療では2~3件/日の手術を行うことも可能です。ダイナミックな開胸・開腹手術が好きであればその術者を目指し修練を積めば良いですし、術者にはなりたいけれどもワークライフバランスも重視したいのであれば血管内治療を選択することも可能です。また手術そのものが苦手で、周術期管理に興味があれば、それを専門にされてもかまいません。多様性が求められる時代です。当科もそれに応じて変化していくべきであろうと考えています。

私のこれまでの経験が、みなさんのお役に少しでも立てれば幸いです。
今後とも宜しくお願いいたします。

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