生化学講座 助教 小橋 友理江

小橋先生

皆さんは何故医者や、医療者になろうと思っただろうか。子どもだった時の夢はなんだっただろうか。そして、どの様な人生を歩んできたいと考えているだろうか。たった一度の人生、誰もが自分にとって最高な人生を歩むために、自分に最適なキャリアプランを歩みたいと考えていると思う。何が正解かは一人一人違うし、幸せの形は人それぞれ異なるので、自分で考えて形作っていくしかないのではあるが、2014年に医大を卒業し、2024年現在11年目にさしかかっている私の短い経験ではあるが、多少なりとも皆さんのお役にたつ事があれば幸いである。

伝えたい事1)公衆衛生の大切さ

私は医学部に入る前から、途上国の医療に貢献したいという希望を持っており、しかし学生時代は何もせず、医者3年目の時の短期ボランティアで実際にミャンマーで麻酔をかけた事をきっかけに、キャリアについて色々と考える日々がはじまった様に思う。そのきっかけは、短期ボランティアを重ねるうちに、途上国の僻地で年単位で腰を据えて医療を提供するのは自分の現状としては難しいという事に気づき、かつ臨床のボランティアだけでなく、途上国の僻地で調査などを重ねるにあたり、公衆衛生の大切さに気づいた事にあると思う。

途上国で何かする事は、公衆衛生の大切さを身を持って学ぶ絶好の機会であった。例えば某国の某地域で話をした住民の方は、高血圧については知っておられたものの、診断されるとライムジュースを飲む事で改善すると信じておられた。この様な状況では、地域の基幹病院で高血圧の診断や治療が出来たとしても、あまり効果が上がらなそうではある。しかし問題は、公衆衛生を学びたいと考えても、日本は医療が発展し分業が進んでおり、公衆衛生を学ぶ機会が少ない事にある。その点、私は5、6年前から福島で仕事をするご縁を頂いているが、震災後の地域復興に関係するプロジェクトや、またコロナ禍でのプロジェクトに関わる機会を頂き、社会医学系の研究や、地域でのプロジェクトに関わる経験を積む事が出来た事に感謝をしている。思えば、社会医学系の研究は、研究に携わる入り口として、私にとっては最適だった。自分の興味のある分野の社会医学系の研究に、様々な国の、地域の方と取り組むにつれ、研究の楽しさを自然に知る事が出来た。また病院の枠組みを超えて、地域の健康問題に真剣に取り組む方の話を聞いたり、地域住民全体の健康について考えたりする事は、幅広い視点を持ち、様々な働き方を学ぶ上で、とても役に立った。

伝えたい事2)患者さんと対峙する事の大切さ、つまり臨床の大切さ

一方で、一人一人の患者様に対峙をする臨床についても、とても重要であると感じている。例えば食べる事を例に例えると、畑を耕し食べ物を作る人、料理する人、食べる人がいるとする。医者、医療者にとって、患者さんを見るという事は、畑を耕し食べ物を作る様な作業に近い気がする。一番大地に近い所の、一番重要な仕事。今まで色々な方に仕事を頂いたが、その仕事を頂けたのも、私が(出来る限り)臨床を離れない様に努力してきたからだと思うし、臨床の仕事が一番大事である、という考えをなるべく長く持ち続けたいと思っている。

では臨床も公衆衛生も大切なら何が一番大切なのかという事になるが、私の中では全てが大事なのだ。臨床と、公衆衛生と、また研究として価値が高い仕事をする為にそれらが重なる所で、意味のある仕事をしたいと常日頃考えている(まだまだ道半ばではある)。その為には臨床も公衆衛生(または社会医学の研究)も学ばなければならなかったが、結果的に私は医師の10年間をこれらを学ぶ為に有意義に支えた様に感じているし、福島でしかなし得なかったかもしれない。この様な時間の使い方は、後輩の皆さんにもおすすめできると感じている。

伝えたい事3)人生の使命を明らかにする事の大切さ(または考え続ける事の大切さ)

以上の私が大事だと思う事は、あくまで、私のやりたい事を実現する為に、役に立ったと言える事である。しかしながら、最も重要なのは、あなたが何をやりたいかである。自分が人生をかけてやりたいと思える事がある人は、社会のルールを守り人に迷惑をかけない限り、誰に何と言われようとそれを貫き通せば良いと思うし、それが何かわからない人は、是非考え続けて欲しい。

お金持ちになりたいでも、暖かい家庭を築きたいでも、海の側に住みたいでも何でも良いと思うが、人生の命題を明らかにしてそれに一生懸命取り組む事が、一番の成長の近道だと思うし、人生から多くを学ぶ一番良い方法かもしれないと思う。子どもの時にワクワクした事や、落ち込んだ時に考えた事、強い感情を誘起された出来事など、ヒントは必ず一人一人の心の中にあるはずである。一人一人が自分が意義を感じる事に取り組み、またお互いにそれを尊重し合う事は、ダイバーシティーの推進を考える上でも非常に重要であり、是非そのような未来を期待したい。

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