令和2年度修了生の体験

私は、「避難指示が解除された地域に暮らす高齢者が肯定的感情を抱く日常生活での経験」というテーマで研究を行いました。このテーマを選んだきっかけは、避難指示が解除された地域に戻り暮らす高齢者の支援に携わった経験から、戻る人の少なさや生活の不便さが注目される中でもいきいきと暮らす高齢者の姿を知ったことです。そこから、帰還した高齢者が日々の肯定的感情を抱いて元気に暮らすための支援を行うには、帰還した高齢者が肯定的感情を抱くのはどのような過ごし方をしているときなのかを知ることが必要であると考えました。

そのためまず文献からは、高齢者が肯定的感情を抱く経験としてすでにどのようなことが明らかになっているのか、日常生活の経験での肯定的感情と健康はどのように関連しているのか、避難指示が解除された地域での住民の生活について明らかになっていることは何かなどについて調べ、研究計画を立てました。
 実際にデータを収集するインタビューでは、相手に語ってもらえるように目的を意識しながら自分自身の言動をコントロールしていくことや、自分の枠や物差しで解釈せずに聴くということがとても難しかったです。語られる内容は大変興味深く、心を動かされました。得られたデータは、語ってもらったことから離れないよう、ニュアンスを消さないように注意しながら分析を行いました。

その結果、避難指示が解除された地域に暮らす高齢者が日常生活において肯定的感情を抱いているのは、①帰郷を実感する我が家での生活、②戻ってきた家での家族や先祖の思いを継ぐ暮らし、③同居・別居家族との団らん、④同じ町外避難の経験を持つ仲間との交流、⑤自他の喜びを実現する活動、⑥にぎわいが戻りつつある町の様子を見る、⑦未来を築く若い世代との触れあい、⑧健康で自立した生活においてであるということが示されました。
 これらの結果から、避難指示が解除された地域に暮らす高齢者への支援に活かすべき視点について示唆を得ることができました。

大学院での学習の中で、看護の役割を見出すためには、まず看護の対象となる人々とその生活を理解することが必要であると学びました。今回の研究もその小さな一歩であるのだと思います。研究のプロセスを一つひとつ踏んで学習することができ、やり遂げた充実感や達成感を得ることができました。今後もさらに学習を続けていきたいと思います。

令和2年度修了 鹿俣 律子

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