令和元年度修了生の体験

私は、これまで精神科看護師として看護実践を積んでまいりました。入学前は、精神科訪問看護ステーションで勤務しておりましたが、精神に障害を持つ人々を地域で支えていくことが、どうあるべきか、もう一度考えたいと思い大学院への進学を決めました。

精神疾患の治療には継続した服薬が重要となる疾患がある一方で、臨床の現場では、服薬をすることに対して、拒否感や困難感を持つ当事者の方たちに出会うことがありました。そのような服薬に対する気持ちを持つ人たちに対し、私はどう向き合うべきか、迷うことが多くありました。そのため、研究テーマの選定においては、「精神障害を持つ方への服薬支援」ということを主軸に置き、文献検索・検討を行いました。その中で出会ったのが、当事者の薬を飲みたくない気持ちにも寄り添う「コンコーダンス(調和・一致)」の考え方でした。コンコーダンスの意味する調和とは、患者の価値観やライフスタイルに患者にもたらされる医療や福祉の在り方が一致すること、そして患者と医療者の調和であると同時に、患者の気持ちと行動の調和、さらに患者の未来と現在の方向性の一致を意味しています。そして、それらの調和を目指していくためには、コンコーダンス・スキルを用いた対話をしていくことが必要となります。

本研究では、過去に服薬自己中断の経験があり、現在地域で生活している統合失調症の2名を対象に、面接による介入をさせていただきました。それぞれ5回の介入を行い、介入前後での服薬に対する認識の変化、面接の中での服薬に対する認識の変化や新たな気づきについて抽出し、分析を行いました。そして、コンコーダンスの意味する調和の視点から、①介入によってどのような変化が生じたといえるか、②なぜそのような変化がもたらされたのか、③地域で生活する当事者を対象にすることへの意義について考察を行いました。

本研究で対象とした2名は、現在は毎日ほとんど忘れずに服薬できており、服薬行動には全く問題がないように見えましたが、ご本人の望む生活や人生を丁寧に聞いていくと、現在の生活と、ご本人たちが望む生活は一致している状態ではないことが明らかとなりました。コンコーダンス・スキルを用いた介入は、このような服薬の必要性の認識を高くもつ統合失調症患者にも、薬物治療の位置づけについての認識や薬物治療に伴う問題への対処に関する主体性に変化をもたらすことが示唆されました。そして、コンコーダンスにおける調和を目指すためには、リカバリーの視点をもって対話を進めていくことや、当事者の望む人生や、その人の持つ価値観を大切にし、丁寧に聞くことが重要であることが考えられました。
本研究は2名の服薬中断の経験のある統合失調症患者に対して、コンコーダンスキルを用いた支援を行い、服薬に対する認識がどのように変化していくのかを検討しましたが、対象者数が2名と少ない事、服薬継続への認識が高い対象者に限定されており、今後更なる研究を積み重ねていく必要があると考えております。

研究や大学院での授業を通して、精神に障害を持つ人々が自分らしく生きていくことを支えるために、支援者として当事者に寄り添う姿勢の在り方や、当事者の言葉に丁寧に耳を傾けることの大切さを改めて感じております。

令和元年度修了 地神 由加里

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