学位記授与式(卒業式)

令和7年度学位記授与式(卒業式) 学長式辞  (令和8年3月24日)

学位記授与式で卒業生が学位記を受け取る様子。
学位記授与式でスピーチをする理事長と、花が飾られた壇上の様子。
学位記授与式でスピーチをする福島県知事

 本日、学位を授与された大学院生28人、学部生349人、修了を認められた別科生20人、計398人のみなさん、福島県立医科大学の教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。皆さんが揃って本日ここに集うことができたことに深く敬意を表します。併せて、それを支えて来られたご家族および関係者の皆様に、お祝いと共に厚く御礼を申し上げます。
 また、本日は内堀 雅雄 福島県知事、矢吹 貢一 福島県議会議長をはじめとするご来賓の皆様、ご多忙の中、本学の学位記授与式にご列席を賜り、誠にありがとうございます。

 さて、皆さんは本日よりそれぞれ進路は違えども、学んできた分野の専門家として 社会に出ていきます。そして、自他ともに専門家、プロフェッショナルとして認められ、その知識を社会に活かし 貢献するために、皆さんはこれからも学ぶことをやめるわけにはいきません。医学、看護学、保健衛生、医療専門職、いずれをとっても、その知見は常に進歩しています。それらをタイムリーにキャッチアップすることは、専門家となる皆さんにとっては当然の義務であり、責務です。ただ、自分の力でそれらの知見を獲得するには、世界に広がる視野とネットワークを持つことが必要であり、その拡がりの大小がそのまま、その人の専門家としての力量に比例することになります。ぜひ、これまでの学びの中で培ったネットワークを大切に、今後のスキルアップに活用してください。

 ただ、自分の専門領域について学び続けてください、ということは、今さら言うまでもないことです。本日、私が皆さんに伝えたいことは、専門領域を超え、さらに幅広い学びを徹底して欲しいということにあります。皆さんの持つ専門的な知識と経験をこれから社会で活かし、医療課題の解決に貢献しようとしても、実は、専門性の高さだけでは問題の解決にはつながらないことがあるのです。
 例えば、2020年から世界を混乱に陥れた新型コロナのパンデミックについて。過去にないスピードでmRNAワクチンが開発、注目され、我が福島県でも 南相馬市にて世界初の次世代型mRNAレプリコンワクチンが製造・発売されました。しかし、それで問題が解決したわけではありませんでした。ワクチン購入に必要なコストを負担できる国、出来ない国。集団接種を可能にするだけの数の医療人材の有無。ワクチンを搬送するための交通インフラの有無やワクチンを冷蔵保存するための電力確保等々。地域経済、インフラ整備、国家間の問題や エネルギー問題など、幅広いテーマと組み合わせて考えなければ、あのパンデミックに対応できない国もあったのです。確かに医療分野の専門家は ワクチン開発という成果を出しました。しかし、皆さんがこれまで突き詰めてきた専門性を広く社会で活かしきるには、少なからず専門外の知識とセットで考えざるを得ないこともあるのです。歴史や哲学、経済、地政学といった皆さんがこれまであまり触れて来なかったであろう分野にも 関心の幅を拡げ、考えを深める努力が必要です。物事を多角的に見、深く考えるための知的土台を作ること、教養を深めることに意識を割いてこそ、皆さんの持つ専門性が社会、世界においてより役立つことになるのです。知識の幅を限定しない態度、すなわち Embrace lifelong learning with resilience and grace. 「しなやかに学び続けよ」という姿勢を 皆さんに意識して欲しいと願います。

 そして現在、私たちを取り巻く世界は大きな変化を迎えています。戦後組み立てられてきた経済や安全保障における秩序が崩れ、これまで当たり前だったことが当たり前ではなくなりつつあることは、昨今の報道から皆さんも感じていることと思います。その変化のスピードは速く、変化のうねりも想像を超えた大きなものです。大袈裟かもしれませんが、従来の常識や価値観が根本から劇的に変わる…すなわち 世界にパラダイムシフトが起きていると言っても過言ではありません。皆さんは そのようなタイミングで社会に出ていきます。そして、このダイナミックな変化により先が見通せない中で、自分を見失わず、飛躍していくために必要なのが自分自身のビジョンの確立です。ビジョンとは今はまだ存在しない未来像のことです。これから目指す未来像を自分の中に描くことは、皆さんのこれからの挑戦や行動において、多くの選択肢の中から少しでも適切な選択をする助けになります。また、ビジョンを他と共有することで、志を同じくする新たな仲間を見つけ、周囲からのサポートを期待することも可能になるでしょう。激動する世界で生きていくには、ビジョンを描く力はとても強力な武器になるのです。
 しかし、ビジョンを必要とするタイミングで、いきなり素晴らしい構想が湧いてくることはまずありません。大切なことは、いつ直面するか分からない新たな飛躍のチャンスが訪れた時、そこに自分なりのビジョンが既に存在し、示せること。つまり平素から 問題意識を持って 世界の変化を捉え、考えて備えておく、言い換えれば、常に現状を認識し、懐にビジョンを持っておく必要があるのです。そしてそのためには、先に述べたように、専門に留まらない幅広い知見を自分の中に取り込んでいき、深い教養を備えることが、ここでも不可欠となるのです。

 しかし、知識を蓄え考えるだけなく、積極的な挑戦も欠かせません。確かに挑戦には常に失敗や負けが付きまといますが、それは成功へのプロセスと捉えましょう。言い換えれば、失敗や負けは、その挑戦が「正解」ではなかったということを確認したり発見したりするプロセスです。それは皆さんがこれまで取り組んで来た実験や研究で経験したプロセスと同じではないでしょうか。何度も実験を繰り返しながら、誤りの理由や背景を明確にし、選択肢から削り落とし、次第に「正解」に近づいていく。それと同じで何度も挑戦し、多くの失敗や負けの経験とセットになった「正解」こそが、将来に活かせる普遍性の高い成功や勝利といえます。実は成功や勝利に内在する失敗や負けの経験こそが最大の価値なのです。タイムパフォーマンスといった考えを否定するものではありませんが、ダイナミックで目まぐるしい変化に対して、効率だけを追求して出す答えは、一時しのぎにしかなりません。

 そして、もう一つ、負けや失敗は、次の行動の起爆剤となります。皆さんも既にご存じのように、私が理事長兼学長としてこうして式辞を読むのは、今日が最後となります。自分の研究者人生、あるいは大学運営をはじめ組織運営を改めて振り返った時、これまで多くの失敗や負けの局面を経験してきました。さらに大きな飛躍や岐路となった場面では常に失敗や負けがきっかけなっていました。そしてその場面でいつも立ち直れるきっかけを与えてくれ、今でも自分の心の中に忘れずにしまっている言葉があります。それは、敗者(ルーザー)の美学です。私自身、失敗や負けの局面で考えるのはこの言葉です。美学とは美しさの価値、本質を探求するということ。つまり、失敗や負けをどう捉え、そこにある本質的な課題を洗い出し、次の挑戦に いかに活かすかを考えるのです。人生は順風満帆のときばかりとは限りません。逆境や不遇のときにどう生きるかで、その後の人生は大きく変わってきます。自分を信じ、明日を信じて前向きに生きる。人生の真価は逆風のときこそ問われています。
 もちろん失敗や負けを積極的に推奨するものではありません。しかし、挑戦に必ず失敗や負けの可能性が伴うのであれば、それを少しでも自分にとって価値あるものへと取り込んでいく精神を忘れずに持ち続けて欲しいと思います。半導体開発の世界的拠点として名を馳せたシリコンバレーでは、若手起業家たちの間で「Fail fast, fail often(早く失敗しろ、たくさん失敗しろ)」という言葉が生まれ、今でも多くのスタートアップ企業がスローガンとして使っていると聞きます。皆さんも、挑戦と学習のサイクルを少しでも早く、少しでも多く経験し、そこで被る失敗や負けを自分自身の価値に変えるしたたかさ、精神力を養って欲しいと思います。

 皆さんひとりひとりのアプローチ方法はそれぞれに違おうとも、貪欲に教養を磨き、果敢に挑戦を繰り返すことで、自分自身をより高みへと成長させてください。そして皆さんの次なる志を実現されることを願っています。本学で皆さんとお会いすることはもうありませんが、いつかどこかの医療の現場でお互いにプロフェッショナル同士として出会うことを心から期待し、本日の 学位記授与のお祝いの言葉といたします。
 皆さん、本日は おめでとうございました。

令和8年3月24日
公立大学法人福島県立医科大学
理事長兼学長 竹之下 誠一

事務担当 : 教育研修支援課

学生総務係: 電話024-547-1972
FAX 024-547-1984
Eメール gakuseik@fmu.ac.jp
※スパムメール防止のため一部全角表記しています

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