RESEARCH /ACHIEVEMENTS研究・業績

研究

救急疾患の病態解析のためには、組織・細胞レベルの応答メカニズム解明に向けた基礎医学的アプローチが必要です。このため障害の軽減と回復の促進を目指した臨床応用の基盤研究をしなければなりません。
我々はこれまで山形大学医学部解剖学第二講座や福島県立医科大学感染制御学講座、放射性同位元素研修施設と共同研究を行ってきました。

①細胞内シグナル伝達に関わる酵素ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)

生体膜の微量成分イノシトールリン脂質の代謝産物であるジアシルグリセロール(DG)は、脂質性二次伝達物質として機能しています。DGのリン酸化酵素DG キナーゼ(DGK)にはDGK アイソザイム(α,β, γ,ζ,ι)があります。

1)ストレスセンサーとしてのDGKζの働き

正常脳では神経細胞に発現するDGKζは、一過性脳虚血モデルにおいて、DGKζは記憶学習に関わる海馬神経細胞の核から細胞質に移行します。また中大脳動脈閉塞による脳梗塞モデルにおいて、大脳皮質ニューロンの細胞死に先立って消失し、グリオーシスに関与するミクログリアで発現します。同様に脳損傷においてもミクログリアの細胞質にも出現しています。海馬スライス実験では、低酸素暴露によりDGKζが神経細胞の核から細胞質に移行することが分かりました。これらの研究からDGKζは神経細胞のアポトーシスへの関与が示唆されました。
このようにDGKζは脳損傷や虚血/低酸素など様々な生体ストレスにより核から細胞質に移行することから、DGKζの脳内でのストレスセンサーとしての役割を研究しています。

(Suzuki Y, et al. Histochem Cell Biol. 2012; 137: 499-511.)

2)肝再生におけるDGKζの働き

肝臓の部分切除による肝障害/再生モデルにおいて、DGKζは増殖する肝細胞の核内に増加することが分かりました。次に急性肝障害、回復過程における肝再生、慢性期の肝硬変を研究するために四塩化炭素投与の腹腔内投与による肝障害モデルを作成しました。DGKα-KOマウスでは、この肝障害モデルにおいて、肝障害のマーカーとなる肝星細胞の活性化が認められ、この時、デルタ型プロテインキナーゼC(PKCδ)が異常活性化することを見出しました。この研究から、DGKαが肝障害による肝線維化の一連のメカニズムにどのように関与しているのかを研究しています。

②血流感染における『生態侵襲モデル』

敗血症は医学の進歩した現代においても依然脅威であり世界では年間1000万人を超える関連死があるとされ、日本においても年間1万人を超える死亡を認めています。そんな敗血症は救急集中治療領域においてcommon diseaseといっても過言ではありません。来院した時には意識清明であっても24時間経過後にはショック状態に陥り死亡される事もあります。新たな治療法を模索するために敗血症の病態解析の研究を行っております。
感染に弱い可能性が示唆されているIL(インターロイキン)13ノックアウトマウスを用いてin vivo,またin vitro研究を行っております。様々な毒性示すLPSと呼ばれる細菌の構成成分をマウスに投与し反応を見ます。このような毒素や菌が感染の侵襲段階のどの段階にどういった影響を与え、もしくは障害が生じるのか調べます。real time-PCR法やELISA法を用いて刺激に応じて増減するmRNAやタンパク質を測定しています。