7.認識可能 (Knowable) vs. 認識不能 (Unknowable)

概要

リスクの認識可能性(Knowability)には、特に重要な3つの因子があります。それは、不確実性(Uncertainty)、検出不可能性(Undetectability)、専門家間の不一致(Expert disagreement)です。それぞれがリスク認識にどのような影響を与えるか、そしてそれに対する対処法について説明します。

不確実性(Uncertainty)

リスクの不確実性は、そのリスクがどの程度不確実であるか、またはエラーバー(誤差棒)がどのくらい大きいかということです。エラーバーが大きいほど、リスクが予測しにくくなります。

下の図のような2つのリスク事象を比較するとしましょう。


リスク1は危険性が高いが不確実性が低くエラーバーが小さい。

リスク2は危険性が低いが不確実性が高くエラーバーが大きい。

この2つを比較した場合、専門家はRisk 1をより深刻なものと判断するが、一般の人々は、エラーバーの最高点に注目しがちであるため、リスク2の方が危険と感じることが多いです。これは、最悪シナリオを重視する傾向があるためです。

専門家間の不一致(Expert Disagreement)

専門家間の不一致は、不確実性よりも大きな影響を与えることがあります。ある事象に対して専門家が異なる評価をする場合、一般の人々はその事象がより危険であると感じることがあります。

あるリスクに対して、専門家全員が10点中7点をつける場合と、半数の専門家が7点もう半数が3点をつける場合、どちらを怖いと感じるでしょうか?答えは、後者です。専門家の間でも意見が分かれているなると、一般の人々は「本当はもっと危険なのかもしれない」と感じるからです。

検出不可能性(Undetectability)

検出不可能性は、リスクが目に見えず感じられないことです。例えば、放射線や発癌物質は目に見えず、すぐには影響が現れないため、非常に恐怖を感じさせます。

スリーマイル島事故の際、取材した記者たちは「放射能事故が戦争よりも怖い」と言ったそうです。その理由を訊くと「戦場では少なくとも撃たれていない場合にはそれが分かるからね」と答えたそうです。放射線は目に見えない、後年になってがんとして影響が現れるかも知れない、よって、恐怖が増すということです。

対応法

専門家間の不一致を不確実性に変える方法もあります。前述の通り、専門家の意見が一致しないことは、不確実性よりも悪い影響を与えるからです。その方法は、単に不一致の幅を示すことです。下の例で見てみましょう。

例: ある工場の汚染リスク評価に対する対応

シナリオ1:

工場の担当者が「今回の汚染について、我々の評価ではリスクは10^-8です」と発表しました。その後、環境局の担当者が「その評価では安全が担保されていない。リスクは10^-7です」と反論し、さらに環境団体の代表が「彼らの評価は両方とも間違いで、我々の評価ではリスクは10^-6ともっと深刻です」と主張しました。これらの評価には100倍の幅があります。一般市民はこの3者の異なる主張を見て、この汚染のリスクは非常に不確実で、つまり深刻だと判断するでしょう。

シナリオ2:

工場の担当者が次のように発表した場合を考えてみましょう。「今回の汚染について、我々の評価ではリスクは10^-8と考えています。しかし、環境局と話し合った結果、環境局はリスクを10^-7と評価しているようです。さらに環境団体とも協議したところ、環境団体の評価ではリスクは10^-6です。つまり、今回の汚染のリスク評価は10^-8から10^-6の間のどこかです。」

このようにリスクの幅を明確に示すことで、専門家の不一致は不確定性に置き換えられました。また、環境団体の10^-6という最悪のシナリオ評価も尊重することで、一般市民の不安(Outrage)を大幅に取り除くことが可能になります。

まとめ

リスクの認識可能性には、不確実性、検出不可能性、専門家間の不一致という3つの主要な因子が関わっています。これらの因子が一般の人々のリスク認識に与える影響を理解し、適切に対処することで、リスクに対する不安(Outrage)を軽減することができます。情報の透明性や可視性を高め、専門家の見解を統合し、不確実性を尊重し示すことが重要です。

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