5.恐れられていない (Not dreaded) vs. 恐れられている (Dreaded)
概要
リスク心理学において、「Not dreaded(恐れられていない)」と「Dreaded(恐れられている)」という概念があります。「Dread(恐ろしさ)」は、直観的に理解しやすい例を使って説明するのが有効です。恐ろしさを感じるリスクは、同程度の健康被害をもたらすリスクよりも、一般的に心配されやすく、メディアに取り上げられ、法規制も作られやすいです。
例:
病気の例:
ひと昔前のAIDSや、典型的には「がん」は恐ろしさを持つ病気です。例えば、同程度の健康被害が喘息や肺気腫の場合よりも、がんの場合のほうがOutrageが高まりやすいです。
放射線:
放射線はDreadを伴う典型例であり、放射線が話題になると、一般的に心配や不安、恐怖が強くなります。
廃棄物:
危険廃棄物に対する反応を分析すると、「危険」というイメージよりも「廃棄物」に対する嫌悪感が大きな影響を与えます。例えば、有害な液体がドラム缶に入って公然と放置されている場合と、それが工場から秘密裏に廃棄されようとしている場合では、公衆の反応は異なります。
対応法
恐ろしさに対する対応も、想起性(Memorability)と同様に、早期に問題を明らかにし、率直に認めることが効果的です。具体的には、「恐ろしさを認め、肯定すること」(Legitimize it)です。以下の事例で具体的に見てみましょう。
事例:米国東海岸で医療廃棄物が浜辺に打ち上げられた事案

ニュージャージー州での対応:
市民の反応:「気持ち悪い!嫌だ!(That’s disgusting!)」
州環境局の返答:「危険ではありません」
市民の反応:「でも、気持ち悪い!嫌だ!(That’s disgusting!)」
州環境局の返答:「でも、危険ではありません」
環境局は「危険ではない」と繰り返し強調しましたが、住民の嫌悪感に対処できませんでした。環境局は「浜辺に打ち上げられた医療廃棄物は気持ち悪いです。しかし、危険ではありません」と述べていれば、住民の不安や嫌悪感に対処することができたかも知れません。
ロードアイランド州の対応:
保健当局の長官が記者会見でコメント:
「ロードアイランド州の市民は、浜辺に医療廃棄物が打ち上げられたことを許しませんし、許すべきではありません。人体への悪影響は限りなくゼロに近いかもしれませんが、これは非常に気持ち悪いものです。許されるべきではありません。そして、保健当局はあらゆる手段を適用してこれらを解決します。」
この対応により、ロードアイランド州は住民の嫌悪感と恐ろしさに真摯に向き合い、PublicはこのDreadを乗り越えることができました。そして、むしろ危険性の少ない廃棄物の処理にどれだけの予算が使われるのかを懸念するようになったそうです。
まとめ
Dread(恐ろしさ)はOutrageを明らかに高めます。恐ろしさを感じるリスクに対しては、早期にDreadを率直に認め肯定することで対応が可能です。これにより、住民のOutrageを軽減し乗り越えていく可能性ができます。