分子の構造を読み解くNMR

 エタノール(CH3CH2OH)と水(H2O) は、分子式が異なりますが、見た目はどちらも「透明な液体」です。分子自体は小さすぎて人の目で直接観察することはできませんが、なぜエタノールがCH3CH2OHという構造を持つことが分かるのでしょうか。有機化合物の構造を明らかにする上で最も威力を発揮するのが、NMR(Nuclear Magnetic Resonance spectroscopy)という分析手法です。

 エタノールのNMRを測定すると、水素が3種類存在すること、またピークの面積比からそれぞれの存在比が3:2:1であることが分かります。さらに、信号の分裂の様子から、隣接する炭素に結合した水素の数も知ることができます。これらの情報を組み合わせることで、化合物の構造を推定できます。より複雑な化合物、例えば私たちが合成した化合物1についても、図のようなスペクトルが得られ、それを解析することで目的とする構造であることを検証しています。有機合成化学の研究において、NMRは最も重要な分析手法の一つであると言っても過言ではありません。

 NMRの歴史は、1938年の核磁気モーメントの測定に始まります。1960年代には永久磁石や電磁石を用いた装置が開発され、化学系の大学などで利用されるようになりました。さらに1980年代になると、超伝導磁石を搭載した高磁場NMR装置が普及し、有機化学の研究には欠かせない分析装置として定着しました。磁場の強さも、当初の1テスラ程度から、現在では28テスラを超えるものまで実用化されています。

 一方、1980年代頃から医療現場で利用されるようになったMRI (Magnetic Resonance Imaging)もNMRと同じ原理に基づくものです。NMRがppm単位のわずかな周波数の違いを手がかりにしてnmオーダーの分子構造の情報を得るのに対し、MRIは磁場勾配を利用して得られるmm単位の生体内の位置情報に基づき体の内部を画像として可視化します。原理の発見からわずか40〜50年で臨床応用にまで至ったことを考えると、基礎的な研究が社会に大きく役立つことが分かります。

エタノールのNMR

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