「コスパ」と「タイパ」について
- 教授
- 佐々木 道子
- ささき みちこ
- 合成化学
最近「コスパ」に加えて「タイパ」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。cost performanceの略である「コスパ」は「かけた費用に対する効果」ですが、time performanceの略である「タイパ」は「かけた時間に対する効果」を表すそうですね(performanceを「パ」と略すこれらの言葉は個人的には好みではないのですが)。費用や時間に対して得られる効果は高いに越したことはないので、「コスパ」や「タイパ」を良くしよう、というのは自然な考え方だと思います。しかし、ここで問題になるのは、効果とは何かを判断するのが現時点での自分自身であり、必ずしもそれが正しい判断とは限らない、ということです。
なぜこのようなことを書くのかというと、最近、大学でこの考え方が拡大解釈されている場面によく行き当たるようになったからです。例えば、講義をしていると学生から以下のような要望を受けることがあります(しかも当然の権利として):「試験に出る問題を教えてほしい」「重要な箇所のみ教えてほしい」「答えだけ教えてほしい」。これも効率よく(最小限の勉強時間で)単位がほしい、という「タイパ」を重視した考え方であると思います。しかしながら、講義を受講することによって得られる「効果(目的)」は、本来、単位の取得ではなく内容を理解する力や自分でものごとを考える能力を養うことです。すなわち、試験問題の答えだけを教えてもらって丸暗記して試験後すぐに忘れてしまう、というのは、長い目で見れば講義に割いた時間をすべて無駄にするものであり、最も「タイパ」が悪い行為になるのではないでしょうか。
大学では、職能に直結しない、そのときには「コスパ」や「タイパ」が悪いと思われる勉強もすることになります。しかしながら、それらが本当に無駄だったのかどうかは、後になってみないと分かりません。一見「コスパ」や「タイパ」が悪いと思われることにこそ、大学で学ぶことの本質があるのかもしれません。