科学的なものの見方について
- 教授
- 佐々木 道子
- ささき みちこ
- 合成化学
「ビタミンC」はサプリメントとして多数販売されていますが、「天然」と明記されたものを多く見かけます。逆に「合成ビタミンC」と銘打った製品は見たことがありません。「天然」という言葉に「安全」「安心」「高効果」というイメージを持つ人が多いからではないでしょうか。しかし実際にはビタミンC自体は図のような構造を持つアスコルビン酸という化合物であり、純度が100%であれば天然物でも合成品でも全く同一です。もし効果に違いがあるとすれば、それぞれに微量に含まれる不純物などに起因するものであり、天然と合成の別種の「ビタミンC」が存在するわけではありません。また、天然由来の化合物であれば全て安心、というわけでもありません。例えば天然に存在する「アフラトキシンB1」という化合物は非常に強力な発がん性を持っています。化合物に対する正しい理解があれば「天然」と言われただけで「安全」と思うことは無くなると思います。
一見科学に見え、科学と主張されてはいるけれど、実際には科学的根拠に基づいていないものを、似非科学などと呼びます。現代ではインターネットなどを通じて手軽に情報を入手できますが、似非科学的情報も多く存在し、お金儲けの手段として利用されることもあります。「天然〜」も場合によってはその範疇に入りかねません。「科学っぽく」装っている似非科学を見抜き、だまされないようにするためには科学に関する基礎的な知識に加えて、それらに基づいて自分で論理的に考えることが重要だと思います。私は1年生の「化学」の講義を担当していますが、物質の性質や反応を丸暗記してもらうのではなく、物事を科学的に考えるトレーニングになるような講義を提供したいと考えています。実際に、試験はノート等の資料の持ち込み可で行っていますが、これまでに培われてきた「勉強(化学)とは覚えるもの」という既成概念を打破することはかなりハードルが高いことなのかもしれません。
