福島県立医科大学 研究成果情報

イタリア科学誌「Clinical and Experimental Medicine」掲載(令和5年6月7日オンライン)(2023-07-28)

LRH1の第510番セリンのリン酸化亢進は肝細胞癌の再発リスク因子である

Aberrant phosphorylation of human LRH1 at serine 510 is predictable of hepatocellular carcinoma recurrence

西間木 淳 (にしまぎ・あつし)
肝胆膵移植外科学講座 大学院生
杉本 幸太郎(すぎもと・こうたろう)
基礎病理学講座 講師

丸橋 繁(まるばし・しげる)
肝胆膵・移植外科学講座 教授

千葉 英樹(ちば・ひでき)
基礎病理学講座 教授
        
研究グループ
西間木淳、丸橋繁 (肝胆膵移植外科学講座)
小林信、杉本幸太郎、千葉英樹 (基礎病理学講座)

概要

論文掲載雑誌:「Clinical and Experimental Medicine」掲載(令和5年6月7日)


 肝癌は悪性腫瘍の中でも予後不良であり、肝切除による根治的な切除を行っても70%の患者さんが5年以内に再発をきたすため、新規治療法や予後不良例を抽出するバイオマーカーの開発が嘱望されている。

 核内受容体は脂質と結合して遺伝子の転写を制御する転写因子で、ビタミンA、ビタミンD、性ホルモン、あるいは甲状腺ホルモンの受容体など、人では48種類が知られています。我々はレチノイン酸(ビタミンA)受容体のセリンリン酸化が転写調節に関与することを明らかに(Sugimoto et al., PNAS, 2019; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31740618/)しました。また子宮体がんでエストロゲン(女性ホルモン)受容体のERα (Estrogen Receptor -α)が同様のセリンリン酸化を受けると腫瘍の悪性化に寄与(Kojima et al., Mol Cancer Res, 2021; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33727343/)し、同様に乳がんにおいてLXRβ (Liver X receptor -β; 肝X受容体β)の異常リン酸化が悪性形質増強に働く(Murakami-Nishimagi et al., Breast Cancer Res, 2023; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37059993/)ことを報告してきました。

 核内受容体の1つであるLRH1 (Liver Receptor Homolog-1; 肝受容体ホモログ1)は様々な臓器の様々な細胞で発現し、脂質代謝や細胞の生存などを制御しています。LRH1は様々な腫瘍で異常高発現がみられ、肝がんでは概ね予後不良因子であることが示唆されていますが、詳細な分子メカニズムやリン酸化の関与は明らかになっていませんでした。今回我々は第510番セリンがリン酸化された状態のLRH1 (以下hLRH1pS510)のみを認識するリン酸化特異抗体を開発し、肝細胞癌の患者さんから得られた手術検体を用いて免疫染色することで、肝細胞癌のhLRH1pS510を定量化しました。hLRH1pS510のシグナル強度と患者さんの予後を比較したところ、hLRH1pS510が高度に集積している患者さんほど再発リスクが高い(早い時期に多くの患者さんが再発する)ことが判りました。本研究によりhLRH1pS510の定量は肝臓がん患者の再発予測マーカーとして有用であることが示されました。またこのリン酸化が肝細胞癌の新しい治療標的になる可能性も期待されます。現在は細胞株を用いてhLRH1pS510による腫瘍悪性形質増強メカニズムの解明を目指しているところです。


関連サイト

  • 論文
    https://doi.org/10.1007/s10238-023-01098-x

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 基礎病理学講座

電話:024-547-2191

講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/home/p2/index.html

メールアドレス:sugikota@fm u.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)