福島県立医科大学 研究成果情報

米国医学誌「Journal of Clinical Oncology」掲載(令和5年4月オンライン)(2023-07-26)

閉経後乳がんの術後内分泌療法 5 年終了患者に対する治療終了とアナストロゾール 5 年延長のランダム化比較試験

Postoperative Adjuvant Anastrozole for 10 or 5 Years in Patients With Hormone Receptor–Positive Breast Cancer: AERAS, a Randomized Multicenter Open-Label Phase III Trial

佐治 重衡 (さじ・しげひら)
腫瘍内科学講座 主任教授
        
研究グループ
試験実行委員:佐治重衡(福島県立医科大学 腫瘍内科)
研究代表者 :岩瀬拓士(名古屋第一赤十字病院 乳腺内分泌外科)
研究グループ:CSPOR (Comprehensive Support Project for Oncology Research) 試験グループに参加した国内117施設

概要

論文掲載雑誌:「Journal of Clinical Oncology」掲載(2023年6月号、令和5年4月20日オンライン)


 「閉経後乳がんの術後内分泌療法 5 年終了患者に対する治療終了とアナストロゾール 5 年延長のランダム化比較試験」

 女性ホルモンを栄養にして増えるタイプの乳癌をホルモン受容体陽性乳癌と言います。このタイプの乳癌では、手術を受けたのち、2年、3年、5年、10年後など時間がたってからおきる再発を予防する目的で、ホルモン療法を長期間受けていただくのが標準となっています。基本のホルモン療法は内服薬で、5年間が標準的な内服期間でした。しかし、このタイプの乳癌では再発リスクが長期にわたって続くため、世界各国で計7-8年や10年といった長期に内服する臨床試験がおこなわれてきました。

 本試験は閉経後患者さんでよく使用されているアロマターゼ阻害薬の1つアナストロゾールを約5年間内服してきた日本人乳癌患者さんを対象に、その時点で終了すべきか、さらに5年間追加で内服継続すべきかを検証するために2007年に計画、開始されました。この試験は、複数の製薬企業からの寄付を受けている公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンターが実施支援をしています。

 

 2007年11月から2012年11月の間に、国内117施設から1697人の閉経後乳癌患者さんにご参加いただきました。早期乳癌の手術後にホルモン療法としてアナストロゾールを4年9ヶ月〜5年2ヶ月間内服している患者さん(9%の患者さんは、タモキシフェンで開始し途中でアナストロゾールに変更して内服していた患者さん)を、術後5年間内服で終了するグループ(終了群)と、さらに追加で5年間内服継続いただくグループ(継続群)にランダムに割り付けさせていただきました。継続群の患者さんのうち15.4%の患者さんは5年間の追加継続はできずに途中で内服を中止していました。

 

 最後の登録患者さんが約5年を内服した時点で治療経過の情報収集を終了し、結果を解析しました。解析対象となった1593人の患者さん(終了群806人,継続群787人)の5年無病生存率(DFS)は終了群で86% 、継続群で91%となり明らかにアナストロゾールを継続いただいた患者さんで良い結果となりました。この差は遠隔転移再発の低下(終了群で46人を継続群で30人へ)、局所領域再発の低下(終了群で32人を継続群で19人へ)、乳癌以外の新規がん発生数の低下(終了群で41人を継続群で20人)の3点で改善となった結果でした。なぜ乳癌以外の新規がん発生数が、アナストロゾールの内服を継続すると低下するのかはわかっていませんが、肺がん、大腸がん、尿路系がんが特に減っていました。本試験の観察期間内での全生存率については、2つの群で明らかな差は認められませんでした。

 

 副作用としては、関節のこわばりや痛みなどの症状と骨粗鬆症は継続群の患者さんで多くありました。この試験では、骨密度の低下した患者さんに週1回の経口ビスフォスフォネート製剤の内服を推奨しており(終了群の21%、継続群の31%の患者さんが内服)、骨折の頻度は両群で差がありませんでした。

 

 これらのことから、アナストロゾールを含む術後ホルモン療法を約5年間内服し、その時点では無再発である閉経後患者さんにおいて、アナストロゾールの内服をさらに5年間継続することにより5年無病生存率(手術後からでいうと約10年後の時点の無病生存率)を改善できることがわかりました。関節と骨関連の副作用は内服継続により増加しますが、経口ビスフォスフォネート製剤の内服推奨により骨折はさほど増えないこともわかりました。

 

 5年間内服が標準である術後ホルモン療法を計10年間内服すべきか?という問いに対して、本試験は日本人患者さんを対象にした唯一の試験であり、日本人乳癌患者さんが、アナストロゾールのようなアロマターゼ阻害薬を5年間以上内服することを選択する際に、そのリスクとベネフィットに関する有用な情報を提供することができました。


関連サイト

  • 論文
    https://doi.org/10.1200/JCO.22.00577

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 腫瘍内科学講座

電話:024-547-1511

FAX:024-547-1514

講座ホームページ:https://www.onco.fmu.ac.jp/

メールアドレス:ssaji@fm u.a c.jp(スパムメール防止のため、全角やスペースを含む表記をしています)