福島県立医科大学 研究成果情報

英国医学誌「BMJ Open」掲載(令和5年4月5日オンライン)(2023-07-31)

福島第一原子力発電所事故後の強制避難指示解除が救急医療体制に与える影響:南相馬市における機械学習解析による後方視的観察研究

Impact of lifting the mandatory evacuation order after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident on the emergency medical system: a retrospective observational study at Minamisoma City with machine learning analysis

吉村 弘記 (よしむら・ひろき)
放射線健康管理学講座 講座等研究員
        
研究グループ
吉村弘記1,2、山本知佳2、澤野豊明3、西川佳孝4,5、齋藤宏章6,7、野中紗織2、趙天辰2、伊藤尚美2、田代聡8、尾崎章彦9,10、及川友好11、坪倉正治2,12
1: 広島大学医学部
2: 福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
3: ときわ会常磐病院 外科
4: 京都大学大学院医学研究科 健康情報学専攻
5: 相馬中央病院 内科
6: 仙台厚生病院 消化器内科
7: 相馬中央病院 消化器内科
8: 広島大学原爆放射線医化学研究所 細胞修復制御研究分野
9: ときわ会常磐病院 乳腺外科
10: 福島県立医科大学 消化器外科学講座
11: 南相馬市立総合病院 脳神経外科
12: 南相馬市立総合病院 地域医療研究センター

概要

論文掲載雑誌:「BMJ Open」掲載(令和5年4月5日)


 救急搬送や救急医療を含む救急医療サービス(EMS)システムの維持は、地域住民の医療サービスにとって必要不可欠です。本研究では南相馬市小高区の救急搬送の状況を調査することにより、2016年の南相馬市小高区への避難指示解除が南相馬市全体の救急搬送にどのような影響を及ぼしたかを明らかにしました。

 本研究は、相馬広域消防本部に保存される救急搬送記録から抽出したデータを用いた後方視的観察研究です。相馬地方にて2013年1月1日から2018年10月31日までに救急搬送された患者を対象として、各搬送を遅延しない搬送と遅延した搬送にわけてAIを使用した解析を行い搬送が遅延する要因を特定しました。

 AIを用いて解析した結果、救急搬送が遅延した要因としては年度間の差が最も大きく、次に時間帯と緯度の差が大きくなっていました。年度間の影響は時間帯や緯度による影響のそれぞれ約1.45倍、1.47倍であり、さらに2016年まではN37.695°より北部地域(鹿島地区)と南部地域(小高・原町地区)との差が大きかった一方で、2017年以降は朝か昼夜かの時間帯での差が大きく存在していることがわかりました。

 南相馬市の救急搬送時間の遅れは、地域的な要因と時間帯によるところが大きかったものの、小高区での避難指示が解除されたことにより、小高・原町地区と鹿島地区の地域的な影響は減少しました。このように、特定の地域に対する避難指示は、その地域だけでなく周辺地域の救急システムにも影響を与える可能性があり、避難指示の解除はその影響を軽減していたことが明らかになりました。


関連サイト

  • 論文
    https://bmjopen.bmj.com/content/13/4/e067536.full

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 放射線健康管理学講座

電話:大学代表024-547-1111(代)

FAX:024-547-1991(代表)

講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/cms/houken/index-2.html

メールアドレス:houken@fm u.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)