福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Breast Cancer Research」掲載(令和5年4月14日オンライン)(2023-06-22)

クローディン4は脂質代謝を活性化することで乳癌の進展に寄与する

Claudin-4-adhesion signaling drives breast cancer metabolism and progression via liver X receptor β

村上(西間木) 祐子 (むらかみ(にしまぎ)・ゆうこ)
乳腺外科学講座  博士研究員
杉本 幸太郎(すぎもと・こうたろう)
基礎病理学講座 講師

大竹 徹(おおたけ・とおる)
乳腺外科学講座 主任教授

千葉 英樹(ちば・ひでき)
基礎病理学講座 教授
        
研究グループ
1) 福島医大乳腺外科学講座: 村上(西間木) 祐子、立花 和之進、岡野 舞子、大竹 徹
2) 基礎病理学講座: 杉本 幸太郎、小林 信、小島 学、千葉 英樹
3) 病理病態診断学講座: 橋本 優子
4) 腫瘍内科学講座: 佐治重衡

概要

論文掲載雑誌:「Breast Cancer Research」掲載(令和5年4月14日)


  細胞間接着分子クローディンは20種類以上から構成されるファミリー分子で、細胞の種類ごとに特定の組合せと量で発現しています。がんなどの病的状態ではこの組合せや量が変わり、正常であれば発現しないクローディンが異所性に高発現するようになったり、正常で発現するクローディンが発現消失したりするため、診断マーカーとしての有用です。約10年前から乳がんではいずれのクローディンも発現しない「低クローディン群」が特に予後不良とされて考えられてきましたが、2020年にはこれが交絡であり必ずしも予後不良ではないという反証がなされ、細胞株でもクローディンが腫瘍促進的あるいは抑制的という相反する結果が報告されており、乳がんにおけるクローディン発現の臨床病理学的意義や生物学的意義は定まっていませんでした。

 我々の研究グループは、乳がんでしばしば高発現するクローディン-4に着目し、乳がん細胞株を用いてその分子機能を調べました。複数の細胞株において、クローディン-4が高発現する方が、増殖、遊走、浸潤などの腫瘍悪性形質が高く、特に細胞内のコレステロールや脂肪酸の含有量が増加していることがわかりました。さらにクローディン-4に端を発する細胞内シグナルが、脂質代謝を制御する転写因子である肝X受容体β (Liver X Receptor-β; LXRβ)の活性化を介して悪性形質増強に寄与することを明らかにしました。

 乳がん手術検体を調べたところ、クローディン-4単独では予後への関与は示されませんでしたが、クローディン-4とLXRβの両方が高発現する群は、その他の症例よりも予後不良であることが示されました。以上よりクローディン-4はLXRβの活性化を介して乳がんの進展に寄与することがわかりました。この経路は既存の治療に抵抗性の症例に対する新規治療標的として期待されます。


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