福島県立医科大学 研究成果情報

第57回日本補体学会奨励賞(令和3年9月受賞)(2021-10-18)

MASP-3の活性化におけるレクチン経路の認識分子の役割

草刈 浩平 (くさかり・こうへい)
医学部 免疫学講座 MD-PhD学生
        
研究グループ
草刈浩平1)、石田由美1)、大森智子1)、鈴木俊幸2)、関亦正幸2)、町田豪1)、関根英治1)
1)福島県立医科大学・免疫学講座
2)福島県立医科大学・附属放射性同位元素研究施設

概要

第57回日本補体学会学術集会について


 日本補体学会は、自然免疫において重要な役割を担う「補体」に関する本邦最大の学会であり、年に1回、国内外の研究者、臨床医師、学生が研究成果を講演、発表ならびに議論をする学術集会が開催されます。本年度の第57回大会は現地およびオンラインのハイブリッド形式で、「補体を制御する」をメインテーマとして主に自己免疫疾患における補体の役割と制御に焦点を当てた内容で開催されました。

賞について


 本学術集会の一般演題で発表をした学生(大学生・大学院生または 35 歳以下の研究者)の中から、原則1名を対象として、特に優秀な演題に対して与えられる賞です。

受賞概要


 補体系は、体内に侵入した病原体に対して活性化することで補体成分を結合し、病原体に異物としての目印を付けます(オプソニン化)。その結果、好中球やマクロファージといった食細胞は、病原体を効率よく貪食処理できるようになります。さらに、補体成分の結合は、補体系による病原体の直接的な破壊を促します。補体系は、古典経路・レクチン経路・第二経路という3つの異なる経路を通じて活性化されます。これまで我々の研究グループは、Masp1遺伝子にコードされている2つのセリンプロテアーゼMASP-1とMASP-3が、それぞれ独立してレクチン経路と第二経路の活性化に働く補体因子であることを明らかにしてきました。

 レクチン経路の補体因子MASP-1は、病原微生物の糖鎖に結合するMBLやficolinなどのレクチン経路の認識分子と複合体を形成し、その複合体が病原微生物に結合することをきっかけにMASP-1の活性化が起こります。一方、第二経路の補体因子MASP-3は、MASP-1と同様にレクチン経路の認識分子と複合体を形成しますが、MASP-3は血中では例外的に既に活性化型で存在するため、その複合体形成の意義は明らかになっていませんでした。そこで本研究では、レクチン経路の認識分子と複合体を形成できない変異型MASP-3を作製し、その意義を明らかにすべく検討を行いました。

 野生型および変異型MASP-3を、MASP-3欠損マウスの尾静脈から投与した結果、両者は血中において同様に活性化型に変化しました。また、変異型MASP-3投与後のマウス血清は、野生型MASP-3投与後のマウス血清と同等に第二経路を活性化しました。しかし、投与後の変異型MASP-3は、野生型MASP-3よりもマウスの血中から早期にクリアランスされることが明らかになりました。以上の結果から、MASP-3のレクチン経路の認識分子との複合体形成は、MASP-3の活性化や第二経路の活性化には必要ではないが、MASP-3を生体内に長期間保持させるために必要であることが示唆されました。

 本研究は、第二経路の補体因子であるMASP-3が、なぜレクチン経路の認識分子と複合体を形成するのか、その意義を世界で初めて見出したものであり、補体系のメカニズムの全容解明に大きく貢献する成果であると考えられます。


連絡先

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