福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」掲載(令和3年9月24日)(2021-10-07)

Determinants of the evacuation destination for psychiatric hospital inpatients following the Fukushima nuclear disaster

精神科入院患者における福島原発事故後の避難先の決定要因

照井 稔宏 (てるい・としひろ)
医学部 神経精神医学講座 併任助教
        
研究グループ
照井稔宏1、國井泰人1,2、星野大1、各務竹康3、日高友郎3、福島哲仁3、安西信雄4
後藤大介1、三浦至1、矢部博興1
1 福島県立医科大学医学部神経精神医学講座
2 東北大学災害科学国際研究所・災害精神医学分野
3 福島県立医科大学医学部衛生学・予防医学講座
4 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科

概要

論文掲載雑誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」(令和3年9月24日)


東日本大震災および福島第一原発事故により、相双地域を中心とした県内の精神科病院に入院していた患者様は、県内外への大規模な避難転院を余儀なくされました。避難当時は病院スタッフや災害医療支援チームが身体状態などを踏まえて患者様の避難先を判断していました。しかしながら、被災地域はかねてより専門家が少なかったことに加え、経験のない大規模な放射線災害であったことから、支援チームの被災地域へのアクセスに困難がみられました。したがって、身体状態の把握や搬送は相当難渋したことが言われています。この研究では、そうした状況下での病院避難において、避難された患者様のどのような背景(精神科診断、身体疾患など)が避難先(福島県内/県外病院)と関わっていたのかを、原発事故後に避難転院をした入院患者様を対象として調べました。

解析の結果、知的障害の診断、呼吸器系および腎尿路生殖器系の身体疾患を持っていることが、福島県内病院への避難との関連を示しました。また福島県外病院への避難と関連していた疾患は、神経系の疾患でした。特に県内避難の傾向を示した身体疾患については、いずれも災害による悪化や死亡が増えることなどが言われており、とても逼迫した状況においても患者様の状態を踏まえた避難先選択がなされていたことが考えられます。また、県外避難の傾向を示した神経系の疾患については、患者様の半数以上がパーキンソン症候群(抗精神病薬などによる薬剤性パーキンソニズムを含む)などであったこと、8割はいわゆる統合失調症などであったこと、患者様全体の年齢が高かったことから、この疾患を持たれていた患者様は長期入院の統合失調症の方が多かったことが考えられます。長期入院で培われた患者様とスタッフとの信頼から長距離の避難への協力に至った可能性が考えられる一方、患者様の陰性症状から避難先に関する意思表示が困難であった可能性も考えられます。

今後は、上記のような避難先の決定が避難後の状態にいかに効果を及ぼしていたか、さらなる検討が必要です。


連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座 照井稔宏
電話:024-547-1331

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