- 君島 勇輔(きみしま・ゆうすけ)
- 福島県立医科大学 医学部 循環器内科学講座 大学院生
- 三阪 智史(みさか・ともふみ)
- 福島県立医科大学 医学部 循環器内科学講座 助教
- 竹石 恭知(たけいし・やすちか)
- 福島県立医科大学 医学部 循環器内科学講座 主任教授
- 池田 和彦(いけだ・かずひこ)
- 福島県立医科大学 医学部 輸血・移植免疫学講座 主任教授
- 研究グループ
- 君島勇輔、三阪智史、横川哲朗、和田健斗、植田航希、杉本浩一、皆川敬治、中里和彦、石田隆史、大島基彦、小出周平、幣光太郎、下田和哉、岩間厚志、池田和彦、竹石恭知
概要
論文掲載雑誌「Nature Communications」(令和3年10月26日)
近年の遺伝子解析技術の進歩により、血液学的に正常な一般健常人でも、加齢に伴って血液細胞に体細胞遺伝子変異が出現する「クローン性造血」と呼ばれる現象が明らかになり、これが心血管疾患の危険因子であることが分かってきました。我々は、クローン性造血の遺伝子変異の中でJAK2遺伝子に着目して、心血管疾患との関連性を明らかにしました。本研究では、JAK2変異に伴うクローン性造血が、肺高血圧症の発症や重症に関与していることを初めて明らかにして、そのメカニズム解明と新規治療法の探索を行いました。
JAK2V617F変異トランスジェニックマウスをドナーとする骨髄移植により、クローン性造血のマウスモデルを作成して検討を行いました。3週間の持続的低酸素負荷により肺高血圧症を誘導したところ、JAK2V617Fの骨髄を移植されたレシピエントマウスは、対照群である野生型レシピエントマウスと比較して、肺高血圧症は増悪し、病理学的な肺動脈リモデリングの増悪とともに肺動脈周囲の好中球浸潤の有意な増加や好中球エラスターゼ活性・好中球由来ケモカインの増加を認めました。好中球の走化性アッセイやコロニーアッセイでの検討から、末梢血からの好中球走化性の亢進と肺髄外造血による増殖の機序により、JAK2V617Fマウスの肺組織における好中球の増加と炎症の増悪が肺高血圧症増悪における中心的なメカニズムであることが示唆されました。
RNAシークエンスではJAK2V617Fマウスでは、造血幹細胞から肺好中球へと分化するに従って、ALK1(ACVRL1)遺伝子発現が増加していることが分かりました。ALK1は、肺高血圧症の患者に見られる遺伝子変異として知られています。さらなる分子メカニズムとして、JAK2V617FはSTAT3をリン酸化させますが、in silicoによる解析を行ったところ、ALK1のプロモーター領域にSTAT3結合部位が示されました。In vitroでの検討では、JAK2V617Fノックイン細胞では野生型細胞と比較して、ALK1プロモーター活性が有意に増加しており、これはJAK1/2阻害薬やSTAT3阻害薬により抑制されることから、ALK1発現はJAK2-STAT3による転写により制御されていることを明らかにしました。
そして、ALK1を阻害することによりJAK2V617Fマウスで認めた肺高血圧症の増悪が改善出来るか検討したところ、ALK1阻害薬の投与により、JAK2V617Fマウスで認めた低酸素誘導性肺高血圧症の増悪は完全に抑制され、肺動脈リモデリングの改善も認めました。
最後に、肺高血圧症患者におけるJAK2V617F変異クローン性造血の意義を検討しました。末梢血液からDNAを抽出してアリル特異的リアルタイムPCR法によりJAK2V617F変異検出解析を行ったところ、JAK2V617F変異クローン性造血を有する割合は、肺高血圧症患者では7.1%(70人中5人)で、これは健常人より有意に高頻度に認められました。JAK2V617F変異を有する肺高血圧症患者全員が、末梢血球数は正常範囲であり、JAK2V617F変異クローン性造血が血液疾患を有しないにも関わらず、肺高血圧症の発症や進展に関与していることが示唆されました。
これらの結果から、JAK2V617Fクローン性造血は、好中球ALK1を介して肺高血圧症を増悪させることが明らかとなり、肺高血圧症の新しいメカニズムであることが示唆されました。またALK1阻害薬は、JAK2V617Fクローン性造血を有する肺高血圧症の患者に有効である可能性が示唆され、肺高血圧症患者におけるJAK2V617F変異検出解析が個別化医療に発展できる可能性があります。
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 循環器内科学講座
職・氏名 大学院生・君島勇輔、助教・三阪智史
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