福島県立医科大学 研究成果情報

第59回日本補体学会学術集会 日本補体学会若手奨励賞(令和5年8月受賞)(2024-01-31)

MASP-1欠損MRL/lprマウスではループス様腎炎による腎機能障害の発症が遅延し、生存期間が延長する

物江 洋人 (ものえ・ひろと)
免疫学講座 大学院生
        
研究グループ
物江洋人、町田豪、石田由美、藤田禎三、関根英治
福島県立医科大学・免疫学講座

今回の受賞について

第59回日本補体学会学術集会


 日本補体学会は、自然免疫において重要な役割を担う「補体」の生体防御機構と、それに関連する疾患をテーマとする歴史ある学会です。本年度の学術集会では、「いま補体がおもしろい~その多面性と可能性」をメインテーマとして遺伝性血管性浮腫や発作性夜間ヘモグロビン尿症、自己免疫疾患、COVID-19などに関連した臨床研究と抗補体薬の可能性、魚やマウスを用いた基礎研究など、多彩な演題で討論が交わされました。

賞について


 本学術集会の一般演題で発表をした大学生・大学院生または35歳以下の研究者の中から、原則1名を対象として、特に優秀な演題に対して与えられる賞です。

概要

 補体は、古典経路、第2経路、レクチン経路とよばれる3つの異なる酵素カスケード反応を通じて活性化され、病原微生物による感染からの生体防御や、アポトーシス細胞のクリアランスなど、生体恒常性の維持に機能しています。一方、補体の無秩序な活性化は、自己の組織を破壊し臓器障害を引き起こします。全身性エリテマトーデス(SLE)は、細胞核成分などに対する自己抗体の産生を特徴とする自己免疫疾患であり、その病態に補体が関与することが知られています。本疾患での臓器障害の1つであるループス腎炎の病態形成には、自己抗体と自己抗原の複合体の腎への沈着を起点とした古典経路の活性化と、第2経路の増幅回路による補体活性化の増幅反応が関与するとされていますが、レクチン経路の関与は不明でした。
 そこで申請者は、SLEモデルマウス(MRL/lpr系)のループス様腎炎におけるレクチン経路の関与を明らかにすることを目的として、レクチン経路の補体因子Mannose-binding lectin-associated serine protease-1(MASP-1)を欠損したMRL/lprマウスを作製して解析を行いました。その結果、MASP-1欠損MRL/lprマウスでは、野生型と比較して、腎機能障害(蛋白尿、血清尿素窒素レベル)の発症の約4週間の遅延と生存期間の延長を見出しました。以上の結果から、MRL/lprマウスのループス様腎炎において、MASP-1は腎機能障害の発症とモータリティ(mortality)に関与することが示唆されました。また、本研究ではMRL/lprマウスの腎糸球体へのレクチン経路認識分子(MBL-A、MBL-C、ficolin-A、CL-11)の著明な沈着を見出しました。MASP-1は生体内でそれらの認識分子と複合体を形成しているため、今回の研究ではMRL/lprマウスのループス様腎炎の病態において、レクチン経路認識分子の沈着とMASP-1の活性化を通じてレクチン経路が関与する可能性が示されました。
 本研究は、これまで不明であったループス腎炎の病態におけるレクチン経路の関与の可能性を見出したことに加え、ループス腎炎に対してMASP-1を標的とする新規治療戦略の可能性を示した成果であると考えられます。

 


連絡先

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