福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Scientific Reports」掲載(令和3年3月)(2021-04-16)

Chromosomal translocation t(11;14) and p53 deletion induced by the CRISPR/Cas9 system in normal B cell-derived iPS cells

正常Bリンパ球由来のiPS細胞におけるゲノム編集とその血球分化

阿左見 祐介(あさみ・ゆうすけ)
医学部 腫瘍内科学講座 病院助手

津山 尚宏(つやま・なおひろ)
医学部 放射線生命科学講座 准教授

高橋(菅井)美咲(たかはし・みさき)
医学部 放射線生命科学講座 医療技師

        
研究グループ
阿左見祐介1、津山尚宏2、阿部 悠2、高橋(菅井)美咲2工藤健一2、太田明伸3、シバスンダラン カルナン3、村松 萌4、重村倫成5、笹谷めぐみ6、橋本優子4、佐治重衡1、神谷研二6、花村一朗3、池添隆之7、小野寺雅史8、坂井 晃2
1福島県立医科大学 腫瘍内科学講座
2福島県立医科大学 放射線生命科学講座
3愛知医科大学 血液内科学講座
4福島県立医科大学 病理病態診断学講座
5信州大学 小児医学講座
6広島大学 原爆放射線医科学研究所 分子発がん制御
7福島県立医科大学 血液内科学講座
8国立成育医療研究センター研究所 成育遺伝研究部

概要

論文掲載雑誌:「Scientific Reports」(令和3年3月)


 我々は多発性骨髄腫 (MM) の腫瘍起源となる細胞を見出すため、ヒトの末梢血およびリンパ節の正常Bリンパ球からiPS細胞(BiPSCs)を樹立した(Kawamura F、Sci Rep, 2017)。これらBiPSCsはDNA2本鎖切断に関与する活性化誘導シチジンデアミナーゼ (AID) の発現誘導が可能である。さらにゲノム編集(CRISPR/Cas9システム)による染色体転座t(11;14)の誘導方法(Tsuyama N, Oncol Let, 2019)を用いてt(11;14)を持つBiPSCsを作製し、p53遺伝子を欠失するBiPSCを作製した。

 骨髄の幼若なBリンパ球が腫瘍細胞の起源とされる急性リンパ性白血病や濾胞性リンパ腫は、IgH遺伝子のVDJ領域の再構成に伴う染色体相互転座が腫瘍化の原因と考えられるため、腫瘍起源の研究は造血幹細胞 (HSC) になる。一方でMMは、Mタンパクを産生するクラススイッチまで終了した機能的なIgH鎖が存在するため、染色体転座はVDJ再構成が完遂されずクラススイッチが起こっていないアレルと他の染色体との相互転座が原因と考えられる。成熟Bリンパ球に染色体転座が生じたことでその細胞が腫瘍化するほどのポテンシャルがあるとは考え難く、この研究は、自己複製能と増殖能を持つ所謂「がん幹細胞」のような骨髄腫幹細胞の存在を見出すのではなく、骨髄腫細胞の起源となる異常Bリンパ球はどのような機序で生じるのか探索することである。我々は成熟Bリンパ球(または形質細胞)が再プログラミングされた状態で染色体異常(転座)が起こることが骨髄腫細胞の起源と推測する。具体的にはBiPSCから造血前駆細胞 (HPC) に分化後、Bリンパ球への分化過程でAIDの発現によりDNA切断が生じ染色体転座をもつ異常Bリンパ球が誕生する。またはBiPSCに何らかの原因(図ではCRIPR/Cas9によるゲノム編集)で染色体転座が生じ異常Bリンパ球が誕生すると考える(図)。

 しかしながら、本研究ではマウスストローマ細胞との共培養において、臍帯血由来のHPCとは異なり、BiPSCs由来のHPCからはBリンパ球への分化は認められずさらに工夫が必要と考えられた。

 

(図)骨髄腫細胞の起源となる異常細胞の発生機序の仮説


連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 放射線生命科学講座

職・氏名:教授・坂井 晃

電話:024-547-1420 または 5801/6661

FAX:024-547-1940

講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/cms/rls/index.html

メールアドレス:sakira@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)