福島県立医科大学 研究成果情報

オランダ雑誌「Clinical neurophysiology」掲載(令和2年12月)(2021-01-14)

Early and late postoperative period facial nerve function prediction based on transcranial facial motor evoked potential results

経頭蓋刺激による顔面神経誘発電位に基づいた術後早期と晩期の顔面神経機能の予後

蛭田 亮(ひるた・りょう)
医学部 脳神経外科学講座 大学院生

佐藤 拓(さとう・たく)
医学部 脳神経外科学講座 講師

藤井 正純(ふじい・まさずみ)
医学部 脳神経外科学講座 准教授

Mudathir Salman Ismail Bakhit(ムダシル サルマン イスマイル バキット)
医学部 脳神経外科学講座 大学院生

齋藤 清(さいとう・きよし)
医学部 脳神経外科学講座 教授

        
研究グループ
蛭田 亮、佐藤 拓、板倉 毅、藤井正純、佐久間 潤、バキット ムダシル、小島隆生、市川優寛、岩楯兼尚、齋藤 清

概要

論文掲載雑誌:「Clinical neurophysiology」(令和2年12月)


脳神経外科においては手術中に神経症状の変化を観察する装置を用い、神経機能を感知し温存する術中モニタリングが発展してきた。小脳橋角部は脳の中心に位置する脳幹と小脳の間にあり、聴神経腫瘍や髄膜腫などの治療が困難な脳腫瘍が発生する。この部分を走行する脳神経は腫瘍の増大とともに巻き込まれたり、圧迫されたり、手術中に腫瘍との関係がわかりにくくなることがある。特に顔面神経は主に顔の表情を作る筋肉(顔面筋)の運動を支配し、この領域の手術の際に神経機能が損傷する可能性がある。そこで、大脳の運動野付近の頭皮に電極を留置し電気刺激を与えることで、運動野を興奮させ、顔面筋の活動電位(FMEP)を観察する方法が生み出された。しかし、FMEP は刺激する頭皮と記録する顔面筋が近いため、安定した波形を得ることが難しかった。

今回我々は、この刺激法に改良(biphasic、定電流、閾値上の刺激)を加え、FMEPの波形を安定化させ、正確な振幅の評価を可能にした。我々は小脳橋角部腫瘍摘出術を行った62例についてFMEPの低下および回復と術後早期および長期の顔面神経の機能との相関を検討した。術後早期に顔面神経麻痺が出現するか否かを示すFMEP変化は、振幅が35%以下まで低下する事であった。手術中にFMEPが35%を下回った場合、手術操作を止めるとFMEPが回復することが多く、その回復の度合いと長期的な顔面神経の機能の回復度に相関が見られた。改良したFMEPにより、術後早期に顔面神経の麻痺が出現するかどうか把握でき、さらに顔面神経麻痺が出現した場合の長期的な機能予後も推定できた。本研究により、我々は脳神経外科手術の治療成績の向上につながる手法を確立した。


連絡先

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