福島県立医科大学 研究成果情報

英国雑誌「Development」(2020年8月号)(2020-08-20)

Unveiling a novel function of CD9 in surface compartmentalization of oocytes

卵子表層の分子区画化に寄与するCD9の新機能を発見

井上 直和 (いのうえ なおかず)
医学部 附属生体情報伝達研究所 細胞科学研究部門 准教授
        
研究グループ
福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所細胞科学研究部門
井上 直和准教授、齋藤 貴子助教、和田 郁夫主任教授

概要

論文掲載雑誌「Development」(2020年8月号)


 哺乳類の受精は、2005年に井上准教授によって見出された精子側の融合因子IZUMO1が、卵子側のIZUMO1受容体JUNOを特異的に認識することで成立します。これとは別にCD9というタンパク質をマウスで人為的に欠失させると重篤な雌性不妊を呈し、これには卵子表面の微絨毛形成不全や小胞(エクソソーム)産生不全が、その一因であることが明らかになっていました。

 今回我々は、CD9が融合因子JUNOなどのGPIアンカー型タンパク質を、卵子の遺伝情報が詰まった染色体がその直下に存在する、卵子表層の皮質アクチンキャップに配置しないようにする「分子区画化」に積極的に関与していることを、ゲノム編集マウスを用いた種々の実験により明らかにし、CD9の新たな生理機能として報告しました。つまり正常な状態では、皮質アクチンキャップに存在しないはずの受精に関わる因子群が、CD9欠損卵子ではそこに漏れ出し、正しい区画化が行われない異常な状態に陥ります。その結果、精子が染色体付近に侵入するリスクが増大し、初期胚の異常と発生不全を招きます。

 本研究は、マウスにおける発見ですが、同じ哺乳類であるヒトにおいても同種のシステムが存在する可能性があります。CD9によって制御されるタンパク質、例えばJUNOの卵子上の局在を調べることで女性不妊症の診断基準の一つとして有効かもしれません。

図説明

卵子細胞膜上に存在するCD9タンパク質は、微絨毛形成やエクソソーム産生を通じて、受精、特に配偶子融合の成立に必要不可欠な分子として知られています。本研究では、CD9の新たな生理機能として、卵子の染色体を保護する表層構造、皮質アクチンキャップ上に融合因子JUNOなどのGPIアンカー型タンパク質(橙色)が配置させないようにする、「分子区画化」の役割があることを突き止めました。


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