リュージュ(龍樹)の伝言

第8回:海外家庭医療先進地視察ツアー

2012/12/29

 2012年最終の「伝言」となった。今回は、12月26日に開催された厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」の第14回会議が、19番目の基本領域の専門医として位置付ける総合的な診療能力を持つ医師を「総合診療医」とし、その専門医を「総合診療専門医」と呼ぶ方針でほぼ意見が一致した、というニュースについて書こうと思っていた。しかし、現時点ではまだ厚労省から会議の議事録は発表されておらず、手元にあるのは事務局提出資料と会議を傍聴した人のレポートのみである。これでは会議のコンテクストも意見の流れもわからないので、ここで詳しい考えを披露するのは適切ではないだろう。今後、日本プライマリ・ケア連合学会理事会などでオフィシャルな議論を積み重ねていきたい。 

 

 ただ、全国の特に若手の日本プライマリ・ケア連合学会員のあいだでは「家庭医」「家庭医療」が将来使われなくなるのでは、ということで多少の動揺があるかもしれない。「家庭医療後期研修プログラム」で研修している人たち、「家庭医療専門医」の認定試験に合格した人たち。皆さんが、世界の医療制度の中でも最も重要なものとして認識されているプライマリ・ケアを専門に担う医師として活躍することは何らるぐことのない事実である。確かに今後、私たちが発表・発信するものについて、誤解や混乱を招かないように、整合性を持たせた名称の使用に配慮していく必要はある。ただ、それはあくまで手続き上、管理運営上のことであって、いままで私たちが「家庭医」「家庭医療」「家庭医療学」と言ってきたものの本質や価値観は変わらない。私たちの患者・家族・地域へのケアも変わらない。名称の変化で本質を見失わないようにしてほしい。

 

 General practice/family medicineの価値観を深く理解するためには、その分野の海外のエキスパートとの交流が必須である。その意味で、当講座では毎年新しく当講座メンバーとなった後期研修医とファカルティーを連れて「海外家庭医療先進地視察ツアー」を実施している。私が北海道家庭医療学センターにいた時には、毎年WONCA(世界家庭医機構)の学術大会へ連れて行ったが、福島へ移ってからは、さらに世界各地で先進的に取り組む人たちと現地で交流する機会を作ってきている。世界標準のgeneral practice/ family medicineとは何か、そしてそのシステムがどのように組織化され教育され研究されているのかを実際に見せてもらうこのツアーは、私たちの世界標準の家庭医療を学ぶ動機づけに大いに役立っている。

 

 学習者中心の臨床教育に心がけている当講座では、このツアーの行先もその年のツアーに参加する人たちに決めてもらう。幸い私は世界の多くの国々に家庭医の友人がいるので、どこでも暖かく迎え入れてもらえる。いままでのツアーの実績としては、シンガポール(国立シンガポール大学)、オーストラリア(シドニー大学、ブルーマウンテン、ボンド大学、ブリスベン、マッカイ、メルボルン)、英国(ケンブリッジ大学、リーズ、英国家庭医学会)、米国(ハワイ大学)、台湾(国立台湾大学、中山医科歯科大学、台中病院、台湾家庭医学会)、中国(香港大学)、ニュージーランド(オークランド大学)、オランダ(ラダバウト大学、ナイメーヘン)である。

 

 平成24年度のツアーは、「へき地での家庭医療とその教育を見たい」という後期研修医の希望に沿って、2013年2月下旬にオーストラリアのタスマニアに行く予定である。オーストラリアでは、大学のgeneral practiceの講座とRural Clinical Schoolとが協力してへき地医療の人材養成と研究までを担当しておりそのレベルはかなり高そうである。一年で最も気候の良い夏のタスマニアの大自然のなかで彼らの活動を見聞するのが楽しみだ。なお、世界標準のgeneral practice/family medicineを理解できるせっかくの機会なので、日本プライマリ・ケア連合学会の国際キャリア支援委員会を通して、全国から若干名の参加者を公募して一緒にツアーをしようと考えている。今後のアナウンスに注目していてほしい。

 

 皆さんと家族の健康と、2013年のさらなる発展を祈念します。

 



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