リュージュ(龍樹)の伝言

第11回:視点・論点・目が点

2013/01/19

 1月16日に放送されたNHK「視点・論点」に出演して、「家庭医・総合診療医を育てる」と題して話をした。「視点・論点」は、NHK解説委員室のホームページの番組紹介によると、「各界の有識者や専門家が、世相や時代の潮流を読むオピニオン番組。国内外の諸問題をはじめ、科学・文化・現代芸術などテーマは多岐にわたります。さまざまな視点から さまざまな論点で "今"を見つめます」という番組である。ウィキペディアによれば、多少スタイルは変遷しているが1991年10月から続いている番組らしい。現在は、総合テレビで午前4時20分から、再放送はEテレで午後1時50分から、月曜から金曜まで毎日放送されている10分間の番組である。

 

 収録は1月10日夜に東京渋谷のNHK放送センターで行われた。昨年11月に家内も出演して生活保護と医療制度改革の話をしており、その収録に同行したことがあったので、NHKの担当の方々とも顔見知りである。前回お邪魔した時にもそう思ったが、10分間の番組制作のために多くの方々が夜遅くまで真剣に取り組んでいることに感心した。

 

 あらかじめ9分ちょっとで読める長さ(約3,000字)の原稿と図表を用意しておき、担当の方からのアドバイスをもとにできるだけ視聴者の人たちが聴いて分かりやすいように手直しした。打ち合わせをして、化粧をしてもらって、いざ収録である。緊張が高まる。カメラの正面のテーブルに原稿を置き、椅子に腰をかけた。時々手元にある原稿を見るように下を向くと自然な感じになって良いことを後で知ったが、後の祭りである。手元の原稿が正面のカメラ直下に映し出される仕組みになっているので、放送時間内に原稿を正確に読むために、私は顔および視線をカメラへ向けて固定してしまった。

 

 私の目は「比較的」大きい。いままでそのことで特に損をしたと感じたことはなかったが、今回は目の大きさが裏「目」に出た。交感神経が「め」いっぱい働いて見開かれた目は、あの距離のカメラからは動かない黒い二つの「点」として目立っていた。「目が点」である。何とか収録を終えたが、スライドを示して説明したり聴き手(参加者)の反応を見たりしながらインタラクティブに行う学会発表や講演とはだいぶ勝手が違った。もし次回また機会があれば、もう少し自然な感じに語りたいものだ。

 

 もちろん、内容が大事である。私が話した「視点・論点」の原稿と図表は、近々NHK解説委員室のブログのホームページ( http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/ )に掲載されるので、読んでもらえれば幸いである。ちなみに、1月15日には英国在住の家庭医(総合診療専門医)澤憲明先生が「総合診療医とプライマリ・ケア」と題して語っているので、ぜひ続けてご覧いただきたい。

 

 放送にまつわるエビソードをもうひとつ披露しよう。

 

 だいぶ前になるが、英国BBC放送のラジオ番組に出演したことがある。日英の高齢者ケアを比較する番組で、ロンドンと東京のスタジオを電話回線で結んで行われた。「おめでとう、リュウキ!英国ではBBCのラジオの方がテレビよりも質が高いと評価されている。それに出演するなんてすごい!」と、毎朝BBCラジオを愛聴している親友のロジャー・ネイバー英国家庭医学会(RCGP)元会長は喜んでくれた。しかし、東京のラジオスタジオの録音室にひとり入れられてライブの放送時間を待つ私は心細く、さだめし心理学の実験をされるネコのようだった。

 

 ヘッドフォンから流れてくる英国の高齢者ケアについての報告やインタビューを録音で聞いた後、ロンドンのスタジオにいるアナウンサーが私に質問した。コンパクトで分かりやすいように英語で答えたりコメントしたりするのはなかなか大変だったが、アナウンサーが日本の老人医療費の額を聞いてきたことで、状況はさらに緊迫してきた。

 

 その番組の当時は、日本の国民医療費が30兆円弱で老人医療費がその3分の1ぐらいの時代だったと記憶している。英国のBBCだから「兆」は「billion」と言うべきか、それとも国際的には米国の影響で「trillion」かな、などと迷いながら恐るおそる「It’s about ten billion yen.」と答えた。…しばらく間があった。そして、アナウンサーの次の質問で、私の緊張は一気にクライマックスに達したのだった。

 

「それは英ポンドでいくらになりますか?」

 

 当時1ポンドが何円だった忘れたが、簡単に暗算できる数字ではなかった。単位も「million」を使わなければならないだろう。もちろん、録音室には電卓はなかった。かろうじて手元にあったメモ用紙とペンで、冷や汗をかきながら筆算で答えたことを忘れることはできない。この時も、私の目は点になっていたはずだ。



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