リュージュ(龍樹)の伝言

第13回:テレビ60年

2013/02/02

  2013年2月1日はNHKがテレビ放送を開始してちょうど60年。…と言うから1953年のことである。私が初めてテレビの映像を見たのはおそらく50年ぐらい前のことだろう。我が家に初めてテレビがやって来た時のことだ。1963年11月22日に米国ダラスでジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されたニュースが何度も繰り返されてテレビを見た大人たちが話していたのをおぼろげながら記憶している。

 

 しかし、その冬にテレビがぐっと身近に感じられる出来事があった。その時の記憶はもっと鮮明だ。ある日テレビのスイッチを入れると、何とそのブラウン管に私の父が映っていたのだ。当時、福島県立会津若松総合病院(現・福島県立会津総合病院)の内科医だった父が、豪雪で道路が閉鎖されて孤立した地域へ自衛隊のヘリコプターに乗って医療支援に出発するのをNHKテレビのローカルニュースが映像と共に伝えていた。なぜ朝一緒に食事をしていた父親が四角い箱の中にいるのか不思議だったが、彼がかぶっている毛糸の帽子は、間違いなく母が数日前まで編んでいたものだ。この後で私がテレビに駆け寄り、「お父さん、お土産買ってきて!」と叫んだという母の証言があるが、無論私は覚えていない。ともあれ、刷り込み(インプリンティング)というものがあるとすれば、この時の記憶が、地域を基盤としたプライマリ・ケアへ私が進むことを方向づけたのかもしれない。地域住民の健康に貢献する姿を見せてくれた父に感謝したい。

 

 このように家族、親戚、友人・知人がテレビに映る、それだけで大事(おおごと)だった時代は過ぎ、今やテレビだけでなく、さらに多くの映像がインターネットに溢れている。科学技術の革新も急速だ。中でも私たちに無くてはならないものは、インターネット上のネットワーク・サービスも含むテレビ会議システムである。福島県は北海道、岩手に次いで広大な面積の県である。現在、福島県内にある私たちの診療・教育の拠点は、県北の福島市と伊達市保原、県中の三春町、浜通りのいわき市鹿島、北会津の喜多方市、そして南会津の只見町の6カ所。2地点間の距離は最長で200km超、冬期は車で5時間もかかる。だから、みんなが実際に集まって参加するカンファレンスを頻繁に開催するのは現実的ではない(月1回はしているが)。そこで役に立っているのがテレビ会議システムである。

 

 テレビ会議システムは本学の医学部学生の地域・家庭医療実習でも大いに活躍している。他の講座では、ひとグループで同じ病院の診療科をローテーションするのだが、当講座では1~3名ずつ県内各地の診療・教育拠点に分かれて実習している。週2回このテレビ会議システムで各地を結ぶことは、各地での学びの経験を同じグループの仲間と共有できて好評である。

 

 大阪大学医学部附属病院中央クォリティマネジメント部長の中島和江教授と本学附属病院医療安全管理部長の橋本重厚教授にお世話になって、東日本大震災後数週間でオランダのアムステルダムで開催されたBMJ (British Medical Journal) Group主催のInternational Forum on Quality and Safety in Healthcareのメイン会場にいる参加者へ、その時の状況を発表できたのもインターネットを介したテレコミュニケーション技術のおかげである。浜通りの被災地から戻ったばかりの冷えきった体で震えながら話していた。その模様は、インターネットの動画掲載サイトで、今でも、誰でも、見ることができる。

http://www.youtube.com/watch?v=IQm163PM_zE 

 

 実は来週火曜日にもBMJの医学生版雑誌である『Student BMJ』のインタビューが予定されている。その日私は只見町の国民健康保険朝日診療所に行くことになっているが、インターネットのテレビ会議システムのおかげで、そこからロンドンにいるジャーナリストとリアルタイムで話をすることができるのだ。只見の雪景色を見てもらいつつ、福島の話も大いにするが、英国の医学生のことについてもいろいろと聞けるのを楽しみにしている。



リュージュ(龍樹)の伝言
カテゴリ
見学・実習希望
勉強会開催予定
フェイスブック公式ページ

pagetop