リュージュ(龍樹)の伝言

第15回:菊之助さん、おめでとう!

2013/02/16

 歌舞伎俳優の五代目尾上菊之助さんが、二代目中村吉右衛門さんの四女・波野瓔子さんと結納を交わした。2月14日、バレンタインデーのことである。最近世界中で悲しい出来事が多く続くなかで、きらりと輝くほんとうに嬉しいニュースだ。

 

 第12回の『伝言』で披露したように、菊之助さんには以前から親しくさせてもらっていてる。今回の記者会見では、菊之助さんの芯(センター)の通った誠実な覚悟と、ほのぼのとした温かい人柄が良く出ていて微笑ましかった。時々お父様(七代目尾上菊五郎さん)と吉右衛門さんが愉快なコメントを連発して、微笑みは爆笑になった。

 

 瓔子さんにはまだお会いしたことがないが、実は以前から彼女が書いているブログ『波野瓔子のきもの日記』( http://www.kateigaho.com/kimono/editors/kimono/ )を読む機会があった。きれいな写真と一緒にきものについて興味あるエピソードが書かれていて、毎回面白く読ませてもらっている。ちょうどこの『伝言』と同じく昨年11月から掲載されている。2週間ごとに更新されているようなので、次回、婚約後の初ブログが楽しみである。 

 

 菊之助さんと私の最初の出会いはおもしろい偶然からで、セレンディピティとも言える不思議さだ。ある日家内と私が歌舞伎俳優尾上菊之助の話をしながら本郷の珈琲店に入ったら、その店のカウンターに菊之助さんが座ってコーヒーを飲んでいたのだった。

 

 彼は運動科学総合研究所( http://www.undoukagakusouken.co.jp/ )の高岡英夫先生と一緒で、彼らもちょうど家庭医療や私のことを話していたという。互いに「えーっ!」と相手を指さしてびっくりしたものだ。さらにその日は、高岡先生と菊之助さんに誘われて、歌舞伎『棒しばり』の稽古にまでお邪魔し、まさに至近距離で古典芸能と武術の技を見学させてもらったり、高岡先生が創始して菊之助さんも正指導員をしている「ゆる体操」についても紹介してもらった。

 

 こうした縁があり、高岡先生が代表をしているNPO法人日本ゆる協会( http://yuru.net/ )の「東日本大震災復興支援 ゆる体操プロジェクト」特別バージョンとして、2011年6月末から7月始めにかけて、福島県内のいわき、三春、郡山、相馬、南相馬、福島の避難所や医療機関で高岡先生、菊之助さん、他そうそうたる指導員の方々来ていただいてゆる体操の講習会が実現した。地域の人たちも大喜びで、特に菊之助さんの人気はすごく、講習会も大いに盛り上がった。ユーモアたっぷりに行われたこの講習会のおかげでこころと身体がゆるみ、被災後初めて笑顔になれた人も少なくなかったのではないだろうか。高岡先生はじめゆる協会のみなさまに改めてあつく感謝致します。

 

 さらに、この講習会の途中でゆる協会一行に相馬市役所と南相馬市役所へ市長を表敬訪問してもらった。その当時この地域では毎年恒例の相馬野馬追をその年実行するかどうかで揺れていた。千年以上の歴史を持つ伝統ある神事を継続したいけれど、大震災と津波で馬具甲冑を失った人々も少なくなかった。最終日の野馬懸(のまかけ)神事が行われる小高神社は福島第一原発から20km圏内だ。

 

 結果としてこの表敬訪問は、野馬追をしようという地域の人たちの背中を押すことになった。菊之助さんが音羽屋ゆかりの歌舞伎舞踊『藤娘』をこの地域の人たちのために踊りたいと申し出たからである。

 

 規模は例年より縮小されたが、この年の野馬追は実行されることになり、菊之助さんの『藤娘』は7月22日の東日本大震災復興相馬三社野馬追前夜祭で披露された。地域の人たちに大きな感動を与え、郷土を守る神事を盛り上げた。私たち福島県の被災者のために最高のパフォーマンスを見せようと、歌舞伎の舞台と比べてかなり狭く条件が違う前夜祭の会場を事前に入念にチェックして舞台道具の配置や照明を工夫し、踊りの稽古を重ねて努力する菊之助さんの真摯な姿をそばで見ていて、私は本当に頭が下がる思いだった。真心からの復興支援とはこのようなものだと知った。

 

 こうして感動を与えてもらった福島県の地域のひとたちも、菊之助さん婚約のニュースに湧いている。

 菊之助さん、おめでとう!



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