リュージュ(龍樹)の伝言

第16回:ネガポ辞典

2013/02/25

 今回のブログ掲載が大変遅くなってしまった。申し訳ない。実は、この『伝言』の第8回で紹介したように、今年度の海外家庭医療先進地視察ツアーとして、成田空港から飛行機を乗り継いで20時間かけて、昨日(2月24日)の夕方にオーストラリアのタスマニアに到着したところである。移動中にブログを仕上げてどこかでインターネットにつないで原稿を送るはずだったが、残念ながらチャンスがなかった。…というわけで、1日目の訪問・見学を終えたタスマニアの北の町Ulverstoneから、ようやくこれを送ることができる。

 

 タスマニアの家庭医療先進地訪問はまだ始まったばかりなので、それについてのブログは次回以降にゆずり、今回は別の話をしよう。

 

 『ネガポ辞典』をご存知だろうか。まず考案者の言葉を借りて『ネガポ辞典』を説明してみよう。

 

・『ネガポ辞典』はネガティブな言葉をポジティブな言葉に変換してくれる辞典です!

・と、いっても、反対語になるわけではありません。

・例えば、「暗い」というネガティブワードは「落ち着いている」や、「聞き上手」というポジティブワードに変換されます。

・自分の短所を長所に捉えるヒントを得るもよし。暇つぶしに使ってくすりと笑うもよし。

・使い方はあなた次第ですが、どんな使い方をしても前向きな気持ちになれること間違いなし!です。

 

 この『ネガポ辞典』は、2010年秋、第17回全国高等学校デザイン選手権大会(通称デザセン)をきっかけに生まれたそうだ。デザセンとは、東北芸術工科大学主催の大会であり、「高校生の視点から社会や暮らしのなかから問題・課題を見つけ、その解決方法を分かりやすく提案する場」である。その決勝大会で、当時北海道札幌平岸高等学校の3年生だった蠣崎明香莉さん、高嶋結菜さん、萩野絢子さんの3人が『ネガポ辞典』を提案して第三位に選ばれた。

(大会時のプレゼンはこちら→ http://www.youtube.com/watch?v=fw6ybj1Fm68 )

その後『ネガポ辞典』は本として出版されたり、iPhoneなどのアプリケーションになったりして、最近ではかなりメディアでも話題になっているらしい。

 

 舞台裏を話すと、『ネガポ辞典』のことは私の娘と息子から聞いたのである。先月末、娘が働いている札幌の情報センターのインフォメーションリテラシー講座で「U25の!ネガポ変換で広がるSNS活動」というフォーラムを開催して彼女がその司会をしたそうで、ちょうどオーストラリアから一時帰国していた息子も参加して面白かったと言っていた。SNS(social networking service)で投げかけられた言葉に傷ついた、言いたいことをうまく伝えられない…、そんな経験のある人に集まってもらい、ワールドカフェ方式で、少人数に分けたテーブルで会話をしながら自分たちが経験したネガティブ言葉を書き出してもらう。次に、それとは別のテーブルの人たちがネガティブ言葉をポジティブ言葉に変換していく、ということをしたそうだ。

 

 「ネガティブ→ポジティブ」変換は、しばしば家庭医療でも治療に使われる。難しい言葉では「認知のゆがみ」とも言われるが、例えば、ある日雨が降って予定していたハイキングかキャンセルになった時に、「雨が降ったのは私のせいだ」とネガティブに考えて必要以上に苦しんでしまう心の在り方が人間にはある。そんな時、「天気と私は関係ない。雨が降ってハイキングができなくても、大地はその雨の恵みで喜んで野菜に水分を与え、私たちの食卓が豊かになる。さあ、今日はゆっくり読書でもしよう」などと考えることができればどんなに楽か。心の負担が軽くなる。

 

 家庭医は苦しんでいる人にそうしたポジティブな考え方を持ってもらえるように勧めるのだが、こうした「ネガティブ→ポジティブ」変換を他人が強いてもかえって逆効果であり、そこに難しさがある。その点、この『ネガポ辞典』の素晴らしさは、自分のペースで徐々に自分自身のネガティブさに(誰に指摘されることもなく)気が付くことができることである。こういうことに気が付き、しかも『ネガポ辞典』という多くの人が使える形にした高校生に大きな拍手を送りたい。私たちの患者さん(特に若い人たち)にも薦めたいと思う。

 

 さて、長時間のフライトの後で、初めての土地をドライブしての訪問・見学やプレゼンテーションや取材が続き若干「疲れた」ところであるが、『ネガポ辞典』をひくと、それは「頑張った」「心地よい眠りにつける」「やりがいがある」ことだと教えてくれる。さあ、今夜は心地よく睡眠をとって、また明日からのタスマニア訪問・見学を楽しもう。



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