実験がしたいです

数年前、学部1年生の実習「自然科学実験」が終わったあと、帰らずに残っているひとりの学生さんがいました。話しかけると「実験がしたいです。」と意外な返事が返ってきました。後日、そこからもうひとり学生さんが参加し、「イトマキヒトデ(Patiria pectinifera)卵母細胞で放射線誘発バイスタンダー効果は見られるか?」をテーマとした3人(当初、私を含めて)の研究がスタートしました。

「バイスタンダー効果」(放射線が当たった細胞から出されるシグナルによって、放射線が当たっていない細胞に様々な影響が引き起こされる現象)は、依然その生理学的意義や機構もあまり解っていない現象です。ただ、現象としては非常に面白い。
この現象に対してどのようにアプローチするか、頭を悩ませていた折、ふと目の前に余った実習材料のイトマキヒトデが動いていました(ヒトデは棘皮動物と呼ばれる、非常に古くに生まれた生物系統に属しています)。
「ヒトデでバイスタンダー効果が見られれば、太古の昔からずっと生物が持っていた仕組みであると言えるのでは!」そう考えて、①ヒトデから卵を採取、②放射線を当て、③放射線を当てていない卵と一緒に培養、④培養後、2人には死んだ卵を数えてもらいました。たったこれだけの単純な系ですが、結果、放射線を当てていない卵に細胞死が誘導される(=バイスタンダー効果が生じる)ことが判りました。
「進化的に保存されている!」そう確信すると共に、おそらくヒトデに放射線を照射したのは(報告の上では)我々が初めてであり、海の生物でバイスタンダー効果が見られた最初の例となりました。

それから論文になるまで1年ほど、さらなる紆余曲折ありましたが、無事になんとかRadiation Research誌に受理され( https://doi.org/10.1667/RADE-23-00198.1) 、胸を撫で下ろすことができました。実験に協力してくれた臨床検査学科の学生さんお二人には感謝しかありません。

URL: https://doi.org/10.1667/RADE-23-00198.1

(写真右:千葉悠季さん、写真左:堀川ひなたさん)



実験室での研究を行う学生たちと指導教員が並んで立っている写真。

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