福島に伝わる鬼婆伝説「安達ヶ原」
- 准教授
- 有吉 健太郎
- ありよし けんたろう
- 放射線生物学
昔話でよく登場する「鬼女・鬼婆」。女性がその宿業や怨念によって鬼に化わったものとされますが、鬼婆の話は、それを聞く者、特に子供にとっては怖いながらもついつい惹き込まれる話ではないでしょうか。
この鬼婆、福島(二本松)にも有名な「安達ヶ原の鬼婆」の伝説があり、能や浄瑠璃、歌舞伎の演目「黒塚」あるいは「安達ヶ原」として有名です。
私がこの安達ヶ原の伝説を知ったのは、大学生の頃、友人に誘われ何気に観に行った能を観たときでした。初めて観る能、しかも夏の夜、屋外の舞台で篝火の中で演じられる薪能「安達ヶ原」。これをよりにもよって最前列で観たのですが、劇中、鬼と化した女性(最初シテは普通の老女として登場)が、夜のゆらめく炎の光の中、恥辱の怒りと悲しみに打ち震えながら登場人物たちに襲いかかってくる様はとても凄まじく、圧倒的だったのを今もはっきりと覚えています。
観覧後、鬼婆への戦慄とともに、どこかにあるであろう「安達ヶ原」という地名が記憶に残りました。
それから随分と経ち、私は福島の野生動物への放射線影響調査を行うため、車で二本松あたりを移動していました。その最中、ふと車窓から「安達ヶ原」の標識が目に。「おや?」と思い「安達ヶ原」を検索してみると「安達ヶ原の鬼婆」の舞台は福島にあること、しかも鬼婆を鎮めた天台寺院があり、埋葬したとされる杉「黒塚」(写真)も存在することを知りました。「ここがあの安達ヶ原か!」調査の疲れは吹き飛び、黒塚を眺めながら独り愉悦と戦慄を覚えました。
明治の民俗学の大家柳田国男は、説話集「遠野物語」の序文で「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」と記していますが、「安達ヶ原の鬼婆」この悲しく恐ろしい福島の物語でぜひ戦慄してみてください。(「鬼滅の刃」がお好きな方は、きっと気に入る話だと思います。)
