福島県立医科大学 研究成果情報

オランダ誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」掲載(令和5年10月1日オンライン)(2023-11-21)

Association between the deaths indirectly caused by the Fukushima Daiichi nuclear power plant accident (disaster-related deaths) and pre-disaster long-term care certificate level: A retrospective observational analysis

福島第一原発事故による間接的な死亡(災害関連死)と震災前の介護認定レベルとの関連: 後方視的観察分析

川島 萌 (かわしま・もえ)
放射線健康管理学講座 MD-PhD学生
        
研究グループ
川島萌, 澤野豊明, 村上道夫, 森山信彰, 北澤賢明, 内悠奈, 野中沙織, 伊東尚美, 齋藤宏章, 阿部暁樹, 榊原守, 柳内和子, 大槻真子 , 堀有伸, 尾崎章彦, 山本知佳, 趙天辰, 内山大雅, 及川友好, 丹羽真一, 坪倉正治

概要

論文掲載誌:「International Journal of Disaster Risk Reduction」(令和5年10月1日)


健康弱者は様々な災害の直接的・間接的影響により健康が脅かされやすい立場にあり、東日本大震災時も多くの方が被害を受けられました。災害による間接的な影響による死亡は災害関連死と呼ばれ、東日本大震災においても3,789人が災害関連死としてお亡くなりになりました。本研究では、これまでわかっていなかった介護認定と放射線災害による災害関連死との関連を統計的に検証することで、次回の災害が発生した際に同様の被害を減らすためのより良い対策に繋げることを目的としました。

この研究は後ろ向き観察研究で、2011年9月から2021年2月までに、震災時に南相馬市に居住し、南相馬市震災関連死認定委員会により震災関連死と認定された520人から情報をいただきました。介護認定の項目にご回答いただいた方のうち200人(38.5%)が介護認定未認定、266人(51.3%)が介護認定を受けていました。介護認定を受けている人たちの死因として多いのは循環器系の疾患と呼吸器系の疾患で、介護認定を受けていない人たちの死因として多かったのは新生物(腫瘍)でした。特に、要介護5の平均死亡までの日数において、死亡の原因で最も多かったのは呼吸器疾患と誤嚥によるものでした。災害からの平均日数は要支援1および2から要介護2が283.83日(SD:346.87)、要介護3以上が156.57日(SD:225.46)、介護認定なしで304.28日(SD:375.63)でした。要介護3以上を必要とする人々と要介護3未満を必要とする人々との間で、震災から死亡までの日数に統計学的に有意な差がありました。

以上のことから、介護認定を受けた人々は災害の急性期に循環器疾患や呼吸器疾患で死亡し、介護認定を受けていない人々は災害の後期に悪性疾患で死亡することがわかりました。災害時には医療リソースが限られており、それを最も必要とする領域に集中させる必要があります。災害初期に要介護度が高い人々に人員を割り当て、移動中のシステムと口腔衛生に取り組むことで災害関連死を減少させることができるかもしれません。また、介護申請のない人々において、これまでも病院への受診機会の減少や元々のがん患者に対するケアの減少により、悪性腫瘍のリスクの上昇が懸念されていました。本研究では、悪化した悪性腫瘍による死亡も災害関連死として扱われており、悪性腫瘍患者の継続的な通院のために病院間連携を強化する必要があると考えられます。将来的には、各地域の特性、患者搬送に関連する条件、リソースを展開することによるリスク削減効果を包括的に評価することで、医療資源を迅速に展開する方法をより深く検討する基盤となるのではないでしょうか。

(川島 萌)


連絡先

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