福島県立医科大学 研究成果情報

オランダ誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」掲載(令和5年7月31日オンライン)(2023-10-02)

Post-traumatic growth caused by the Great East Japan Earthquake and response to coronavirus disease 2019

東日本大震災による心的外傷後成長とコロナウイルス感染症への対応

川島 萌 (かわしま・もえ)
健康リスクコミュニケーション学講座 MD-PhD学生
        
研究グループ
川島萌1、村上道夫1,2、小林智之3、竹林由武1、坪倉正治4、保高徹生5、田巻倫明1
1: 福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座
2: 大阪大学感染症総合教育研究拠点
3: 福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座
4: 福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座
5: 国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門

概要

論文掲載誌:「International Journal of Disaster Risk Reduction」(令和5年7月31日)


 災害などのストレスフルな体験の後に、人間的な成長が起こることを心的外傷後成長(PTG)と言います。PTGは、東日本大震災(GEJE)の被災者においても確認されています。本研究では、GEJE時にPTGを経験した人は、そうでない人に比べて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)へより良い対応が取れるのではないかという仮説を立てました。この研究は横断研究で、2021年1月25日から2月16日の間に郵送法による調査を実施しました。無作為に抽出した20~26歳の福島県および宮城県の住民1800人に質問票に配布しました。

 結果としては、582人を対象に分析を行いました。GEJEによるPTGは、被災県、特に地震と津波を経験した県で有意に高いという結果になりました。さらに、PTGは三密(密集、密閉、密接)を避ける、基本的な感染対策、自粛中の体調管理、十分な休養と栄養の摂取といったCOVID-19に関連する対応と有意に関連していました。このことから、PTGを経験することで、GEJEの影響を受けた人々がCOVID-19パンデミックによりよく対応できるようになった可能性が示唆されました。しかし、PTGが高い人ほど、COVID-19パンデミック後に他者に対して排他的な行動をとるという結果となりました。この結果は生存欲求の一面を表しており、生死の重要性を構成要素として含むPTGの概念とは矛盾しないものです。しかし、この関連は他の因子との関連よりもやや弱く、倫理的側面が個人間の考え方の違いを生み出しやすいことを反映していると考えられました。

 結論として、本研究は、PTGを得ることでその後のパンデミックや災害への対応においてより良い行動をとることができることがわかりました。災害後に強い社会の繋がりやeヘルスリテラシーを高めることでPTGが獲得でき、感染対策の遵守など、さらなる適切な行動につながる可能性があります。

(川島 萌)


連絡先

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