福島県立医科大学 研究成果情報

第124回日本医史学会総会, 第29回富士川游学術奨励賞(令和5年6月受賞)(2023-07-11)

第一次世界大戦下における日本人衛生学者の軍事研究―戸田正三の欧州留学に注目して―

末永 恵子 (すえなが・けいこ)
総合科学教育研究センター人文社会科学領域 講師
        

今回の受賞について

学会について -日本医史学会-


 日本医史学会Japanese Society for the History of Medicine(JSHM)は、医史学の研究と知識の普及を目的に、1927〔昭和2〕年に設立された伝統ある学会です。日本医学会を構成する128の学会の第1分科会に位置づけられています。医学の歴史のみならず、それに関連するあらゆる領域の歴史を幅広く探究する学会です。

賞について -富士川游学術奨励賞-


 「富士川游学術奨励賞」は、受賞者のこれからの医史学研究の発展を期待することを目的として設立されたものです。対象は、『日本医史学雑誌』の3年間に掲載された原著論文のうちから、優れた業績に対して授与するもので、授賞は各年度に1篇です。受賞者は、学会理事・代議員の投票により選出された第3位までの論文の中から、学会理事会が選任した選考委員会の選考を経て決定されます。

概要

 受賞した論文は、「第一次世界大戦下における日本人衛生学者の軍事研究―戸田正三の欧州留学に注目して―」『日本医史学雑誌第68巻第4号』2022年12月掲載)です。

 この論文は、ヨーロッパ留学中に第一次世界大戦に遭遇した衛生学者戸田正三をとりあげ、その研究環境や人的交流、そして研究内容の解明を行うことにより、大戦が戸田に与えた影響について考察したものです。彼は、軍事研究を実施していたフランスのドワイヤン研究所でフランス軍の使用を念頭に置いた上下水の塩素消毒法の研究に取り組みましたが、軍事衛生学の研究を「生きた学問」であると明言し、軍事目的の実用的な研究に従事することに積極的な意義を見出していました。これらの経験が、後にアジア太平洋戦争で医学者の戦争動員を指揮する戸田の思想形成に影響を与えたことを指摘いたしました。 

 医学者の戦争協力については、従来アジア太平洋戦争期を中心に研究がなされてきましたが、第一次世界大戦における医学者の軍事研究に注目した研究がほとんどなく、本稿は先駆的な意味をもっています。医学者が第一次世界大戦中に何を体験し、その経験をどう位置づけたのかを検証しており、アジア太平洋戦争における戦争協力の歴史的背景を探る上で重要であるばかりでなく、現在鋭く問われている「大学・科学者と軍事研究」との関係を考える上でも参考となる論文です。


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