福島県立医科大学 研究成果情報

独国科学誌「Cancer Immunology, Immunotherapy」掲載(令和4年4月オンライン)(2022-05-13)

Role of the cGAS-STING pathway in regulating the tumor-immune microenvironment in dMMR/MSI colorectal cancer

ミスマッチ修復欠損/マイクロサテライト不安定性大腸癌の腫瘍免疫微小環境制御におけるcGAS-STING経路の役割

金田 晃尚(かねた・あきなお)
医学部 消化管外科学講座 助手

中嶋 正太郎(なかじま・しょうたろう)
医学部 消化管外科学講座 准教授

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 主任教授

        
研究グループ
金田晃尚、中嶋正太郎、岡山洋和、松本拓朗、齋藤勝治、菊池智宏、遠藤英成、伊藤美郷、三村耕作、菅家康之、齋藤元伸、佐瀬善一郎、藤田正太郎、坂本渉、小野澤寿志、門馬智之、大木進司、河野浩二

概要

論文掲載雑誌:「Cancer Immunology, Immunotherapy」(令和4年4月)


 ミスマッチ修復欠損(dMMR)/マイクロサテライト不安定(MSI)大腸癌は、ミスマッチ修復欠損のない(pMMR)/マイクロサテライト安定性(MSS)大腸癌と比較して、免疫原性が高く、細胞傷害性(CD8+)T細胞の浸潤度合いが高く、予後良好とされています。cyclic GMP-AMP synthase (cGAS) - stimulator of interferon genes (STING)経路は、ウイルスをはじめとする外来DNAに対する重要な自然免疫経路のひとつとして知られていましたが、近年の研究成果により、大腸癌を含む様々な癌種において腫瘍微小環境における抗腫瘍免疫応答の制御に重要な役割を果たすことが明らかとなってきました。実際に腫瘍細胞におけるcGAS-STING経路の活性化が腫瘍組織へのCD8+T細胞の浸潤に寄与するものと考えられていますが、dMMR/MSI大腸癌におけるCD8+T細胞浸潤に対するcGAS-STING経路の役割は十分に解明されていませんでした。

 本研究では、公開データセットの大腸癌コホートを用いた解析により、cGAS-STING, CD8, CXCL10, CCL5 (cGAS-STING経路で制御されるCD8+ T細胞走化性因子)の遺伝子発現レベルは、dMMR/MSI大腸癌で有意に上昇していました。また、cGAS-STINGの発現はCD8遺伝子シグネチャーの発現と有意に関連していることが示されました。大腸癌切除標本283例の臨床検体を用いた免疫組織学的解析では、dMMR大腸癌の腫瘍細胞においてcGAS-STINGが高度に発現しており、また腫瘍細胞でのcGAS-STINGの高発現がCD8+ T細胞数の増加と有意に関連していることが明らかとなりました。さらに、ヒト大腸癌細胞株を用いてミスマッチ修復遺伝子の発現を抑制すると、cGAS-STING経路の活性化が促進されることも明らかとなりました。

 以上の結果からdMMR/MSI大腸癌では腫瘍細胞においてcGAS-STING経路の発現が高く維持されており、CD8+ T細胞の浸潤と免疫活性の高い腫瘍微小環境に寄与しているものと考えられます。今後、cGAS-STING経路を標的とした大腸癌における新規の癌免疫治療への発展が期待されます。


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