福島県立医科大学 研究成果情報

スイス科学誌「Cellular Physiology and Biochemistry」掲載(令和3年8月11日)(2021-08-30)

Cesium Treatment Depresses Glycolysis Pathway in HeLa Cell

セシウム処理はHeLa細胞の解糖経路を抑制する

小林 大輔 (こばやし・だいすけ)
医学部 細胞統合生理学講座 助教
        
研究グループ
細胞統合生理学講座 小林大輔、西村菜摘、挾間章博

概要

論文掲載雑誌「Cellular Physiology and Biochemistry」(令和3年8月11日)


セシウム(Cs)はアルカリ金属元素であり、人間にとって本質的な用途は見出されておらず、海外ではがん治療の代替療法としてCsの使用例も存在するが、臨床研究で検証された有益な機能は知られていない。一方我々の先行研究において、Csはヒト子宮頸がん培養細胞 (HeLa細胞)の増殖を用量依存的に抑制することを明らかにしており、その機序としてCsが解糖系経路を抑制すると想定されていた。本研究では、Csの影響を受ける解糖経路のステップを明確に決定した。

Cs処理を施したHeLa細胞の解糖系酵素の発現量、その酵素活性、代謝物濃度をPCR法、ウェスタンブロット法、酵素法で測定した。その結果、Cs処理は、解糖系回路の酵素であるヘキソキナーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ(PK)、に加えて乳酸デヒドロゲナーゼの転写レベルおよび発現レベルを減少させ、加えてPK活性を低下させた。解糖経路の代謝物を分析したところ、Cs処理は乳酸濃度を低下させ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型、NAD+)の濃度を増加させたが、ピルビン酸およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型、NADH)の濃度には影響を与えなかった。[NAD+]/[NADH]比の増加と[乳酸]/[ピルビン酸]比の減少は、Cs処理が好気的な解糖経路を阻害することを示している。

結論として Cs処理はPK活性を阻害し、[NAD+]/[NADH]比を増加させる。したがって、Csは解糖系、特に好気的解糖経路を阻害すると判断した。これらの結果から、Cs処理後のHeLa細胞の増殖抑制は、Csによる好気的解糖の阻害が原因であることが示唆された。


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