福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Scientific Reports」掲載(8月・オンライン版)(2021-08-27)

The effects of T-DXd on the expression of HLA class I and chemokines CXCL9/10/11 in HER2-overexpressing gastric cancer cells

T-DXdがHER2陽性胃癌細胞のHLAクラスI及びケモカインCXCL9/10/11の発現に及ぼす影響

中嶋 正太郎(なかじま・しょうたろう)
医学部 消化管外科学講座 講師

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 主任教授

        
研究グループ
Shotaro Nakajima, Kosaku Mimura, Takuro Matsumoto, Aung Kyi Thar Min, Misato Ito, Hiroshi Nakano, Prajwal Neupane, Yasuyuki Kanke, Hirokazu Okayama, Motonobu Saito, Tomoyuki Momma, Yohei Watanabe, Hiroyuki Hanayama, Suguru Hayase, Zenichiro Saze, Koji Kono

概要

論文掲載雑誌「Scientific Reports」(8月・オンライン版)


T-DXdは第一三共独自の技術を用いて創製された新規の抗体薬物複合体であり、独自のリンカーを介して新規のトポイソメラーゼI阻害剤であるDXdを抗HER2抗体に結合させた薬剤です。近年の臨床研究によりトラスツズマブを含む2レジメン以上の前治療歴を有するHER2陽性の切除不能進行・再発胃癌、食道胃接合部癌に対し統計学的に有意かつ臨床的意義の高い改善を示すことが明らかとなり、2020年4月に国内承認されました。T-DXdはHER2依存的に高い殺腫瘍細胞活性を示すことが報告されていますが、私たちはヒトHER2陽性胃癌細胞を用いてHLAクラスI及びCXCL9/10/11の発現に対するT-DXdの影響を解析することで、腫瘍免疫に着目した新たな抗癌作用の解明に取り組みました。HLAクラスIは一部の癌細胞で発現が低下しており、キラーT細胞による認識から逃れることで、癌の進展や予後不良に関与することが知られています。HER2陽性胃癌細胞株をT-DXdで処理すると、HLAクラスIの発現が有意に増加することが明らかとなりました。興味深いことに、T-DXdによるHLAクラスIの発現増加はトラスツズマブ耐性のHER2陽性胃癌細胞株においても観察されました。またCXCL9/10/11はT細胞の遊走因子として知られるケモカインですが、HER2陽性胃癌細胞株をT-DXdで刺激すると、CXCL9/10/11の発現が著しく増加することが明らかとなりました。さらにHER2陽性胃癌細胞株と末梢血単核細胞(PBMC)の共培養系を構築し、T-DXdの存在下で培養を行うと培養上清中のインターフェロンγの産生が有意に増加すること、またHER2陽性胃癌細胞株のHLAクラスIの更なる発現誘導が見られることも明らかとなりました。これらの結果はT-DXdがHER2陽性胃癌において腫瘍細胞のHLAクラスI及びケモカインCXCL9/10/11の発現を促進することでT細胞などの免疫細胞の遊走を促進すること、また遊走したT細胞などの免疫細胞がIFN-γを産生することで腫瘍免疫がさらに活性化される可能性を示唆しています。今後臨床検体を用いた更なるメカニズムの解明が期待されます。


連絡先

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